今回のテーマは「フェンネルの冷製ポタージュ」。そもそもなんでこのスープを作ろうと思ったかと言えば、前々回のコラム記事で「サーモンのコンフィ」のトッピングにディルを買おうと思ったら見当たらず、その代わりに画面からはみ出すほどの立派なフェンネルが店頭にあったから。

ディルの代わりにフェンネルを買ったのは葉の形がディルに似ているというだけ。同じハーブでも味も香りも当然違います。でも実はディルとフェンネルは近縁種、栽培農家にとっては2つが交雑してしまうことが問題だそうです。
目次
フェンネルは茴香(ウイキョウ)
フェンネルはヨーロッパあたりが原産で、和名「茴香(ウイキョウ)」。平安時代に中国から伝来して、ストレス性胃炎などに効く漢方 安中散加茯苓(アンチュウサンカブクリョウ)などの原料として有名です。フェンネルにはアネトールという女性ホルモン類似物質が多くあり、最近は更年期障害などにも薬効があるとされています。
元々、中国名だった茴香の意味は、ウィキペディアによれば、
「腐った魚に使うと香りが回復するから名づけられたといわれる」
とのこと。そのぐらい独特のアニスに似た香りがあります。ちなみにアニスもフェンネルと同じセリ科の植物。
中国ではスターアニス(八角)を大茴香、フェンネルを小茴香と呼んだりもします。
特徴的な球茎

ハーブ・スパイスとしてよく使われるのは、びんに入った種子「フェンネルシード」やディルに似た葉。

でも実物を見ると、存在感がすごいのはその株元(バルブ)。200〜400gぐらいはあり、スライスしてサラダとして生食したり、加熱して煮込み料理にしたりスープにしたりします。
フェンネルの冷製ポタージュのレシピ
とフェンネルのお勉強はこのぐらいにして、さっそくこの株元を使ってスープを作っていきます。基本的にはビシソワーズのリーキ(ポロねぎ)の部分をフェンネルに置き換えたもの。ただこのレシピではリーキよりうまみが少ない分、鳥だしでうまみを補っています。
材料と分量
- フェンネルの株元(バルブ)⋯1個(約200g)
- じゃがいも⋯150g
- 無塩バター⋯10g
- 水⋯500ml
- 鳥がらスープ(丸どりだしDX)⋯250g
- 生クリーム(35%)⋯100ml
- 白こしょう⋯適量
- グロセル(粗塩)⋯5〜6g
- フェンネルの葉⋯適量
調理道具
- シリコン樹脂加工フライパン24cm
- ステンレス多層鍋18cm
- ミキサー
フェンネルとじゃがいもの下ごしらえ

フェンネルの株元を3〜4cm幅にザックリと切り、きれいに洗います。

じゃがいもは皮を剥き1/4ぐらいの大きさにカットします。
弱火でフェンネルを炒める

フライパンにバターを落とし、110℃(かなり弱火)で6分間、フェンネルを焦がさないように炒めます。
フェンネルとじゃがいもを煮る

炒めたフェンネルを鍋に移し、水と鶏がらスープを入れてひと煮立ちさせます。

沸騰したらじゃがいもを投入。再沸騰したら弱火に落とし、鍋のふたをずらしてかけ25分間煮ます。
ミキサーにかける

25分煮たら粗熱を取ってミキサーへ。今回はスープを濾さないので完全に滑らかになるまでミキサーをかけます。この時に塩も一緒に投入します。

フェンネルとじゃがいもが完全に滑らかになったら生クリームと白こしょうを加え、軽くミキサーします。こちらはあまりミキサーをかけすぎるとホイップクリーム化するのでご注意を。
フェンネルの冷製ポタージュ完成

冷蔵庫で3時間以上冷ましたら、器によそいフェンネルの葉を浮き実にして完成です。
フェンネルの独特な風味が良い具合に和らぎ、誰にでも飲みやすい、いわば「万人受け?」する一品の完成です。
フェンネルの風味を立たせるなら
逆にフェンネルの風味をもっと際立たせたい場合は、
(1)鶏がらスープを使わず、すべて水で作る。
(2)じゃがいもを入れず、コンスターチでとろみを付ける。もしくはとろみを付けない
というのも。結構あっさりしたスープに仕上がります。
このあたりは作る方の狙いでご随意に…
「フェンネルの冷製ポタージュ」としてReproレシピを公開しておきます。Reproユーザーの方はアプリから検索してお使いください。
「洗練」という価値観
今回のレシピもそうですが、近頃どうにもスープやソースを「裏ごし」するという行為が好きになれなくて。
最近はミキサーの性能が上がっており、Vitamixのように強力なミキサーを使えばたいていのものは滑らかに仕上がるというのが理由の一つ。
中にはセロリやグリーンアスパラガスのように外側の繊維が気になる食材もありますが、これらも外側の繊維をピーラーで取り、丹念にミキサーをかけるとかなり滑らかになりますし…
「スープにモッタリ感が出る」というのも、ミキサーで生クリームをホイップ気味までかくはんすると「ヴルーテ」のような軽い仕上がりになりますし…
実は最近、約2年ぶりに福島県いわき市のレストランHAGIさんを尋ねたんですよ。
相変わらず美味しいというか、さらに美味しくなっていました。

それで、ブールブラン的なソースを一口いただくと。
「あっレディクション濾してない。エシャロット美味しい…」
※レディクション⋯ブールブランなどのソースを作る時に土台となる白ワインなどでアッシェ(みじん切り)したエシャロット(香味野菜)を煮詰めたもの。
「そうなんですよ。レディクション濾さないと、あいつ分かってない、とか洗練されてない、とか言われちゃうんですけど、美味しいんですよね。」
と萩シェフ。

そうなんですよ。レディクションしたエシャロットってソースの中に残っているとテッパンに美味しいんですよ。ずっと思ってました。
というか、裏ごししてシノワの中に残っているものが、たいてい一番美味しいんですよ。ソース然り、スープ然り、だから味噌汁の味噌かすも、最後は味噌汁に戻しています。
フランス料理の歴史にはまったく詳しくないのですが、コンソメスープに代表されるような、宮廷料理的な、何しろ
「贅沢な素材を贅沢に使うこと(余計なものはみんな捨てちゃう)」=「洗練」
みたいな価値観についていけないところもあり…
だって、その捨てるところこそが美味しかったりするいんだもの!
コンソメのクラリフィエに使った卵白とミルポワまみれの牛ひき肉も、どうにかして美味しく食べることができないかいつも思案しています。
常磐の地元の野菜と魚を大切にしている萩シェフの評価は最近とみに上がっており、数カ月前にもNHKのドキュメンタリー番組で、地元の生産者を大切にするシェフの地元愛に焦点が当てられていました。
その番組でも、いまやレストランHAGIには、東京はおろか世界中からお客さんが訪れるとのこと。
「Farm to Table」やサステナビリティが大切にされる昨今、東日本大震災とそれにともなう福島第一原発の事故以来、それをいち早く実践している萩シェフ。
18世紀フランス宮廷料理的な「洗練」って価値観は、もう一度考え直しても良い時期に来ているのではないかと思う今日このごろです。


