裸節は食べるかつお節


 そもそものきっかけは、他のスタッフが書いたこのコラムにインスパイアされたから。
このコラムでかつお節の種類について、荒節、枯節・本枯節、裸節の3つに分けて説明しています。
まずはこれに補足説明を。

裸節は荒節の表面を削ったものです

裸節 白いのはカビではありません。うまみ成分が析出したものです

 詳しい工程は省略するとして、かつお節は、煮熟・焙乾などの工程を経て荒節ができ、表面の燻煙成分を削ってカビ付けすると枯節や本枯節ができます。
この荒節から表面の焦げやタール分などを削ってカビ付けする前に製品化したものが裸節です。

裸節と枯節・本枯節の違い

本枯節 カビ付けされているので裸節と違い表面が明るい茶色です

 そもそも裸節は枯節・本枯節を作る前のものですから、製作期間も短く、手間も少ないので枯節・本枯節よりお値段が安いです。(最近はほとんど変わらない感じもしますが)

【裸節】
枯節・本枯節より鰹らしいパンチのある味で「味噌汁などパンチのある汁物のだしを取りたい」とか、「おひたしなどにかけたい」というのに向いています。

【枯節・本枯節】
上品な味わいで裸節より香り高く、お椀など繊細なだしを取りたい時に向いています。

一番の違いは削りやすさ

裸節は圧倒的に削りやすい

 でも一番の違いは、圧倒的に裸節の方が本枯節より削りやすいということ。写真では分かりやすいように厚めに削っていますが、良い削り箱(かつお節削り器)さえ使っていれば薄くするのも厚くするのも自由自在です。

本枯節には良い削り箱が必須

本枯節の削り

そもそも本枯節はメチャクチャ固いです。この写真のように薄く幅も広くきれいに削るためには、まず最高級の削り箱が必要で、その上に腕力・技術・経験も必要になります。

伏高 本職用鰹節削器 77,000円(税込)

これは築地場外の有名なかつお節屋「伏高」さんの最高級削り箱で、6〜7年前に私が買った時でも4万円以上しましたが、いまやなんと7万7000円。
でもかつお節削り器って、結局は「カンナ」なんで、どれだけ刃が鋭いか、どれだけ薄く刃を出して固定できるかが命です。本職の大工道具が高価なのと同じで、残念ながら安いかつお節削り器で、最高級(=最硬度)本枯節をヒラヒラの花がつおにすることはムリです。
そして最高級削り箱を使い、かつお節削りにそこそこ慣れているとはいっても、やっぱり本枯節を削るのは正直疲れます。


だからこんな「魔改造」までしているわけです。
この魔改造電動かつお節削り器で、今まで15〜20分ぐらいかかっていた作業を3分ぐらいで終わらせることができるようになりました。でも問題はこれ…

味噌汁のだしを取るには十分なんですが、おひたしなどの上にかけるとすれば、花がつおとは言わないまでも、もうちょっと幅広でヒラヒラした方が良いなあ、と。

削り節の寿命は30分

 こんなことをしてまでも本節(削ってないかつお節)を削ることにこだわる理由は、ひとえにパックされた「削り節」が美味しくないから。
いや、正確に言うと「すぐに美味しくなくなるから」。
パックを開けた直後は文句ないんですよ。でもかつお節の酸化は削って30分後には始まって、24時間後には大幅に風味が劣化します。
ミニサイズ(5gとか)のパックはともかく、削り節でだしを取ろうとすると、たいていは100gパックだったりします。でも1回に使うのは、せいぜい30gぐらい。
しょうがないから残りはパックをクリップで止めて冷凍庫へ。冷凍庫で保存すると酸化速度は遅くなりますが、それでも3日も経てば…
一度本節から削りたてのかつお節の鮮烈な香りと味を知ってしまったら、その違いは歴然です。
そう考えると本節って、本当に優秀な保存食品なんですよ。
なので高級な和食屋さんになると、煮物用のだしは削り節で朝一番に取っておきますが、お椀(=吸い地)については、昆布のだしだけ前もって取っておき、お客さんに「お椀」を提供するタイミングを計算して、直前にダッシュで本枯節を削って仕上げるというのが、よくあるオペレーションです。
実際、営業時間中はReproで終始昆布だしを抽出し続けているというお店もあります。Reproなら放置しておけるというのが最大のメリットなのでしょう。

そこで裸節の登場

 そこで裸節の登場です。魔改造電動かつお節削り器を使わなくても、使いたい時にちゃちゃっと削れるイージーさ。パンチがあって味噌汁のだしだったらこっちの方が美味しいんじゃないか?って気持ちにもなるぐらい。たぶん裸節と高級削り箱があれば(いや、安い削り箱でも)、腕力のない女性や子どもでもたぶん簡単に削れると思います。少なくとも本枯節を安い削り箱で削ったり、慣れない人が削って粉々にする、といった失敗はないと思います。

本枯節の水分含有量=約15%以下
裸節の水分含有量=約23%


この水分量の差は削りやすさに大きく影響します。本枯節を削るのが、乾燥して固くなった木材にカンナをかけているとすれば、裸節は柔らかいプラスチックにカンナをかけているようなもの。
本枯節で30分かかる作業は、裸節なら5分で終わります。ですから少なくとも「本節の美味しさを知ってしまったけど、あまり腕の力には…」とか、「食卓でおひたしにちょこっとかけたい」という方に裸節はイチオシです。

裸節は食べるかつお節

 ということで裸節を使った料理をいくつかご紹介させていただきます。

おひたしにかける

島らっきょうの塩漬けと裸節

裸節が最も活躍するのは、おひたしなどにちょこっとかけるというパターン。「食卓で少しだけ削る」というシーンに最適です。この写真はおひたしではなく「島らっきょうの塩漬け」に裸節をかけているものですが、この立派なフォルムどうですか?
ミニパックのかつお節とは見栄えも段違いです。
ちなみに漁師さんも、魚屋さんもかつお節屋さんも「おひたしなどにかつお節をかける時は、なにしろたくさんかけるのが美味しい」と言っています。ぜいたくにかつお節をかけていただきましょう。

煮物に使う

たけのこの土佐煮

煮物にも重宝する裸節ですが、一番その実力を発揮するのが「たけのこの土佐煮」。土佐煮はかつお節だけでだしを取るので、裸節のパンチのあるだしが効きます。

たけのこの土佐煮の材料・分量

  • アク抜きしたたけのこ⋯150〜250g

【煮汁】

  • 裸節⋯7〜10g
  • 水⋯300ml(カップ3/2)
  • 薄口しょうゆ⋯30ml(大さじ2)
  • みりん⋯30ml(大さじ2)

たけのこの土佐煮の作り方


たけのこを適当に薄切りにカットしたら、

裸節以外の煮汁の材料を鍋に入れてひと煮立ち。みりんのアルコール分を飛ばします。
たけのこの分量が150〜250gぐらいなら直径14〜16cmぐらいの小さめの鍋をお勧めします。

まずはたけのこを投入して、再沸騰したら弱火に落として5分間煮ます。

5分経ったら、さらに弱火に落として裸節投入。また5分間煮たら完成です。

あとは粗熱が取れるまでふたをして寝かせておくと味が染み込みます。


Reproレシピはこちらです。

そのまま食べる

海苔弁当の必需品。海苔の下に振りかけるおかかしょうゆ

海苔弁当と言えば、

海苔の下に振りかける「おかかじょうゆ」は必需品。かつお節をそのまま食べる料理の代表格です。


おかかじょうゆと言えば、町のお弁当屋さんの海苔弁に使われているような、砂糖も加えて油で炒めたものだと思っていますが、NHKの「みんなの今日の料理」で料理研究家の田口成子さんが教えているレシピが、最もシンプルで最高に美味しかったのでここで裸節バージョンのご紹介を。かつお節の美味しさを堪能するならこれがお勧めです。

おかかじょうゆの材料・分量

  • 裸節⋯6g
  • すりごま(白)⋯14g(大さじ2)
  • しょうゆ⋯15ml(大さじ1)
  • みりん⋯15ml(大さじ1)

材料はこれだけ。地味にびっくりするのはかつお節より大量のすりごまを投入すること。3分ずりぐらいの、軽くすったすりごまにしました。

おかかじょうゆの作り方

作り方は、材料すべてを小さめのボウルに入れて混ぜるだけ…
裸節の削りっぷりが立派だったので、細かく千切って入れました。
「みりんのアルコール分」なんて気にしてません。火も通っていませんが、密閉容器に入れて冷蔵庫にしまえば、10日間ぐらいは保存できるそうです。
一見、すごく乱暴にも見えるんですが、これが今まで食べたおかかじょうゆで一番美味しかった、と言わせてください。火が入っていないのでかつお節の風味が残り、こういう料理こそ削りたてのかつお節を使いたいところです。
そしてごまを大量に入れるのも、実際に食べてみると香ばしくバランスも良い感じです。

裸節の注意点

 ここまで裸節のメリットばかりをお話ししてきましたが、次は裸節の注意点について。

賞味期限が短く冷蔵庫保存

 水分含有量が多い裸節は枯節・本枯節より賞味期限が短いです。と言っても本枯節の賞味期限が2年なのに対し、裸節は1年なので、普通に使っていれば「賞味期限切れ」ということはまずないかと。
さらに開封した裸節はラップを巻いて冷蔵庫に保管するのがお勧めです。でもこれは逆にメリットかもしれません。
というのも枯節・本枯節は冷蔵庫保存NGです。それでなくても水分含有量が少ない枯節・本枯節を冷蔵庫保存すると、さらに乾燥して削る時に粉々になる可能性が高くなるから。とは言え最近の気密性が高い集合住宅で、そのまま常温に出しておくのも梅雨時などの湿度が心配です。
なので私は枯節・本枯節はワイン冷蔵庫で保管しています。
裸節は水分含有量が多いので悪くなりやすいのは事実ですが、そのおかげで冷蔵庫にしまっても乾燥し過ぎということはまずないかと思います。(一応ラップを巻いて冷凍用保存袋に入れておくぐらいの配慮はした上で)
ちなみに、うちでは裸節を真空パックして冷蔵庫で保管しています。このやり方でいまだかつてトラブルはありません。いっそこの方が無駄な気遣いが不要で気軽かとも思っています。


このあたりのことは築地のかつお節問屋「タイコウ」の大塚麻衣子さんのnoteで詳しく説明されています。大塚さんのnote記事おもしろいですよ。
「本枯節は、最初に流水とたわしできれいに洗う」とか、常識を覆されるお話しが盛りだくさんです。

なかなか売っていない

 実はこれが裸節の最大のネックです。先程のnote記事で大塚さんもこのように。

「裸節を買う機会は、非常に少ないものです。産地に行った場合や昔ながらの乾物店で極稀に売られている場合、あとはインターネットで選んで購入する場合を除いて、殆ど目にする機会も無いと思います。」

実際、タイコウさんのサイトでも裸節の商品は取り扱っていないようですし…
でもまったく買えないかと言えばそうでもなく、私はタイコウさんと同じ築地のかつお節屋さん「伏高さん」で購入しています。


ただし時期によっては品切れのこともちょくちょくあるのでご注意を。

ネットで検索すると伏高さんだけでなく、裸節を取り扱っているサイトも散見されます。実物を見ることができないのはちょっと不安ですが、購入ルートはそれなりにありそうです。

かつお節削り器が削れなくなったら

切れ味が悪くなったらカンナを研ぐしかありません

 最後に、かつお節削り器が削れなくなった時は…素直に刃を研ぎましょう。
かつお節削り器は、つまりは「カンナ」ですからずっと使っていると切れ味が悪くなります。その時は刃を研ぐしかありません。
こんなことを言うと、一気にハードルが高くなる方もいらっしゃるかもしれませんが、包丁研ぎをしたことがある方(特に和包丁を研いだ経験がある方)は、要領は同じです。削り箱からカンナを外してベタに研ぐだけです。
「包丁研ぎの経験がない」という方は以下の方法をアドバイスします。

(1)それなりのお店でそれなりの削り箱を購入した場合は、購入したお店で研ぎをしてくれる可能性が高いです。
(2)東京なら合羽橋界隈には刃物研ぎのお店が数店舗あります。そこに問い合わせしてみましょう。
(3)仲の良い料理人(特に和食の料理人)に頼む。高いコースを予約すればタダで研いでくれる可能性もあるかと。仲の良い大工さんがいれば、それもOK。
(4)昭和40年以前に生まれたお父さん・おじいちゃんに頼む。この年代だと小さい頃はまだパックのかつお節も本だしも普及していなかったので、たいてい子どもの頃に「かつお節削り」のお手伝いを強要された経験があるはずです。もしかしたらカンナ研ぎも経験しているかも…

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