焼くチーズ とろけるチーズ ーとろけるチーズ編ー

 前回はパルミジャーノのクロカンテ、焼きカチョカバロ、ココットで丸ごとカマンベールと「チーズを焼く料理」について科学的考察も踏まえて作っていきました。
今回は「チーズをとろかす料理」を作りつつ、チーズの中で何が起こっているのか?を見ていきたいと思います。

とろけるチーズと言えば…

チーズをとろかす料理の代表選手と言えば、冬のホームパーティーの定番「チーズフォンデュ」。
ところでチーズフォンデュを作る時に、白ワインで伸ばしたりレモン汁を入れたりしませんか?単に濃度を薄め、固まりそうになったチーズの粘性を下げるだけなら「水(お湯?)で良いのでは?」と疑問に思ったことは?

チーズは酸性で固まりにくくなる

前回のコラムで、チーズが原型を保っているのは、カゼインというタンパク質が網目構造で脂肪の小さな粒を包みこんでいるから、そしてリン酸カルシウムという物質が網目の連結器の役目を果たしていると説明しました。お忘れの方は前回のコラムをもう一度ごらんください。

今回重要なのは、この「リン酸カルシウム」という物質。雪印メグミルクさんのサイトで説明していますが、この物質は歯の表面を保護している「エナメル質」と同じです。虫歯菌が付着して酸性物質が産生されると、歯を保護しているエナメル質が溶けて、穴があいていきます。
つまりリン酸カルシウムは酸で溶けてしまうのです。正確にはリン酸カルシウムのカルシウムイオンが遊離してしまい、連結器としての役目を果たせなくなり、カゼインの網目の色々なところにほころびができ、中の脂肪球がドロドロと…
加熱するとカゼインの網目がユルユルになると前回説明しましたが、酸性溶液を入れて加熱するとユルユル&網目がほころぶ ことによってさらに「とろけるチーズ化」するわけです。

乳化(エマルション)は不安定

だったら「レモン汁を入れるだけでよいのでは?」という疑問が次に出てきます。それでも白ワインが必須なのは、風味付けだけでなく白ワインの「水分」が必要だから。
チーズフォンデュのあのトロトロ状態は、実は「乳化(エマルション)」という、水の中に本来混じり合うことがない油(脂肪)の小さな粒が一様に分布している特殊な状態になっているのです。(逆に油の中に小さい水滴が分布しているパターンもありますが)
「乳化(エマルション)」という現象は、色々な料理に使われています。例えばマヨネーズとか、フレンチのオランデーズソースとか…
オランデーズソースのような卵黄系ソースを作った経験がある方はお分かりのように、加熱温度が高すぎると、あっという間に分離してしまいます。
水と油が混じり合うのですから「乳化」という状態は不安定です。温度など、ある一定の条件内の時にしか起きません。だからオランデーズソースほどナーバスではないものの、チーズフォンデュを作る時もそれなりに注意が必要になります。

チーズフォンデュのレシピ

 そんな知識も踏まえて、さっそくチーズフォンデュを作っていきましょう!
チーズフォンデュでやりがちな失敗は、鍋底の温度が上がりすぎてチーズを焦がしてしまうこと。
でもReproの場合は鍋の表面温度を設定して加熱するので、たとえば表面温度=90℃と設定したら鍋底の温度が90℃以上に上がることはありません。つまり焦げ付いたりする心配は皆無。一度レシピが決まってしまえば、火加減を心配する必要がないところが便利です。

チーズフォンデュの材料・分量

【チーズフォンデュの材料・分量】

  • グリュイエールチーズ⋯70g
  • コンテチーズ⋯70g
  • コーンスターチ(もしくは片栗粉)⋯3g
  • 白ワイン⋯100ml
  • レモン果汁⋯小さじ1/2(3g)
  • にんにく⋯1片
  • タイム(あれば)⋯適量

グリュイエールはスイスのチーズですが、スイスと接するフランス・サヴォア地方にもグリュイエール・サヴォアというグリュイエールチーズがあります。これはこれで美味しいし、チーズフォンデュに使う人もいるのですが、結構クセがある(香りも含め)チーズなので購入の際はご注意を。
それから70gというやや半端感があるチーズの分量。これは単に100gのチーズブロックを買って外側のリンド(固い部分)をカットした残りを削った、という意味ですので「70gじゃなきゃ絶対ダメ!」とかいうことではないです。全部削ると80gとか90gぐらい取れるかもしれませんが、手をケガしてもよくないのでほどほどに。

【具材の材料・分量】

スティックセニョール(ブロッコリーニ)は日本生れのブロッコリーと中国野菜「カイラン」の交配種
  • バゲット⋯適量
  • じゃがいも⋯適量
  • スティックセニョール⋯適量
  • にんじん⋯適量
  • ウィンナー⋯適量

ちなみに具材は、今回使ったものを列挙しただけなので、「チーズフォンデュなら絶対これはあるよね」というのはバゲットぐらいでしょうか。
ありがちなのはブロッコリーですが、スーパーでスティックセニョールを見つけたので、ブロッコリーの代わりに使ってみました。これならフォンデュフォークに刺さなくても茎の部分を持ってチーズをディップできるかな、と。そして結構美味しかったです。

使用する鍋・道具

鍋は直径12cmのココットがジャストサイズです。

気分を盛り上げるパーティーアイテム「フォンデュフォーク」。
あとは、鍋のサイズが小さいので、小さいホイッパーを用意しましょう。

具材を用意する

ディップする具材は、事前に火を入れておきます。じゃがいも、にんじん、スティックセニョールはせいろで蒸しました。
ここで悩ましいのが、具材が冷めてしまうこと。特にホームパーティーでは、ついおしゃべりに夢中になって時間が過ぎるのも忘れ… それで最近の賢い方法はこれ。


具材もココットもホットプレートの上で保温、というもの。
ただし難点は、具材を保温する温度とチーズフォンデュを温める温度が必ずしも同じではないということ。

Reproを2台お持ちの方だったら、1台はフォンデュ用、もう一台は大きめのフライパンを70℃ぐらいで保温して具材保温用とするのがベストなんですが…(苦笑)

これはお好みですが、バゲットをオーブンなどで軽くあぶっておくというのも。

2種類のチーズとコーンスターチを混ぜておく

グリュイエールチーズとコンテチーズをすりおろしてコーンスターチと混ぜておきます。
それにしても、なんでコンスターチ(もしくは片栗粉)を入れるのか?
その理由をシンプルに説明すると、「チーズがダマになるのを防ぐため」です。
ふだん煮物をしている時に、水溶き片栗粉(コーンスターチ)でとろみを付けたりします。この時には片栗粉がダマにならないよう、少しづつ入れて一生懸命かき混ぜたりしますよね?

そもそもダマになりやすい食材を入れて「ダマになるのを防ぐ」ってなんだかピンとこない話です。でも…


左の図は、コーンスターチを入れていないチーズフォンデュを作っている時の鍋の中を表しています。チーズのタンパク質や脂肪は凝集(つまりダマになる)しようとしています。
一方 右の図は、コーンスターチも加えてとろみが付いた状態です。とろみ(=水を含んだコーンスターチのゲル粒子)がチーズ成分が集まろうとしているのを邪魔しています。数式で表現するとこうなります。

分離速度 = 1/粘性(とろみの強さ)

簡単に言えばコーンスターチのとろみがタンパク質や脂肪の小さな粒が運動しようとするのを邪魔しているので再凝集(=ダマ)になりにくい、ということ。

毒をもって毒を制す」みたいなことですかね…

白ワイン・レモン果汁をひと煮立ち

鍋に白ワイン・レモン果汁、そして皮を剥いたにんにく1片と、あればタイムを入れてひと煮立ちさせます。

【ここからは主にReproユーザーに向けての説明です。】
鍋に入っているのは少量のほぼ白ワインです。以前のコラムで説明しましたが、アルコールが入っているとアゼオトロープ(共沸)効果で沸点が下がり、一気に沸騰します。上の写真はまさに突沸している瞬間です。
危険なので、この状態を回避して、もっと穏やかに沸騰に持っていく「裏ワザ」があります。
その詳細については、こちらのコラムをごらんください。

弱火にして1〜2分間煮出す

とにかくひと煮立ちしたら弱火に落として1〜2分間煮出します。もちろんアルコール分を飛ばしたり、にんにくの香りを移したり、という意味もありますが、余分な水分を蒸発させるという意味でもあります。
いずれにせよ、チーズフォンデュにとって水分は必ず必要ですが、多過ぎるとシャバシャバに、少な過ぎると粘性が高くなってしまうので、この後の加熱工程も含めて蒸発量を調整しましょう。

表面温度=100℃で少量づつチーズを投入


1〜2分経ったら、にんにく・タイムを取り出し、表面温度=100℃に設定して少しづつチーズを入れてかき混ぜていきます。

少しづつチーズを投入するのは、ダマになったり分離したりしないためです。乳化(エマルション)という状態は不安定だということをお忘れなきよう。

ところで賢明なる読者の中には「100℃って温度が高すぎない?もっと低い温度で溶けるんじゃないの?」と疑問を持たれた方もいるのでは?
グリュイエールチーズもコンテチーズもカルシウム分は800mg〜1000mg/100gで、けっこう高め、メルト性=中です。
それでも想定される流動化温度帯はせいぜい70〜80℃といったところでしょう。
にも関わらず100℃設定とは?

Reproでは、水(煮汁)を加熱する時は「水温ターゲット」で温度管理します。(この場合は主に外部センサーを直接煮汁に浸し水温を直接測温します)
しかし今回は「表面温度ターゲット」で温度制御しています。これはフライパンで炒め物をする時などに使われる温度ターゲットです。このモードではフライパンの上に乗っている水分や固形物の温度は考慮せず、ひたすらココット鍋底の温度を100℃にしようとしています。

なので当然ながら煮汁?自体の液温はもっと低くなっています。液体なのになぜ表面温度ターゲットを使っているか?という理由は以下の2点です。

(1)液体の粘性が高くなるので外部センサーで正確に測温できないから。
(2)当たらない(鍋底が焦げない)ことを最優先にしたいので鍋底温度にシーリング(特定の温度を天井にする)をしたいから。

一方で余分な水分を蒸発させたいという狙いもあります。なのでいったん100℃設定ですが、チーズを溶かしていって粘性が上がってきたら、ふつふつ具合も見ながら設定温度を下げていきます。

最後は勢いよく混ぜて糸を引くように

チーズを全量混ぜ、濃度(粘性)も良い具合になったら、最後は勢いよくホイッパーでかき混ぜます。
なぜか「魯山人納豆」のようにチーズフォンデュも最後は勢いよくかき混ぜて、細く長く切れない糸を引くのが良しとされていますね。

安定稼働温度=92℃

魯山人納豆状態になったら完成です。表面温度=92℃に下げて安定稼働フェーズに入ります。

3年ぐらい前に、作家・料理家の樋口直哉さんが遊びに来てチーズフォンデュを作ったことがあります。この時には安定稼働フェーズに入っても100℃のままでした。
その時はステンレス貼り底構造のCRISTEL L 深型16cmの鍋を使って、分量も今回の3倍近いチーズ400gと白ワイン200mlで作りました。やはり表面温度ターゲットで温度管理しているので、鍋の蓄熱性と作る分量によって加熱温度や安定稼働温度は微調整する必要があるようですね。

ただ、チーズが溶けて粘性が高いので、グツグツ具合を見れば誰でも「これは温度がちょっと高いな」と分かるはずです。作る時は、余分な水分(アルコール分)を蒸発させたいので、ほんの少しふつふつしているぐらい、安定稼働時はふつふつが消えるぐらいに調節してみてください。
後は水分が蒸発し過ぎたら白ワインを足して伸ばすわけですが、チーズを熱々にしたいのと水分の蒸発量(粘性が高いか低いか)はトレードオフの関係なので、そこは自己判断で温度調節をしてみてください。

これはほぼチーズフォンデュを食べ尽くした図。この状態でも火は入ったままです。
でも当たる(鍋底が焦げる)気配はまったくなし。いずれにせよ100℃か90℃か80℃かという話なので、そのレンジに温度帯があれば少なくとも焦げる心配はありませんからご安心を。

ということでチーズフォンデュのReproレシピを公開しておきます。Reproユーザーの方はアプリから検索してみてください。

ラクレットのレシピ

 そして「とろけるチーズ」のもう一つの代表格と言えば「ラクレット」。冬のフランスの定番料理、日本の「鍋」のようなものだそう。そのあたりの事情はこちらの動画を。

「エクストラクション」という新しいソースの技法を産んだ偉大な三つ星シェフ ヤニック・アレノの右腕 廻神 大地さんの動画です。
淡々とした口調で「日本人には、このラ〜クレットと言う料理、おなかにもたれて、あまりチーズが食べられません…」とややネガティブ感の漂う感想を語りながら、ラクレットを紹介している廻神さんがたまりません。
この動画で分かったことは、

(1)レストランで見る半円形の巨大なラクレットの切断面を炙って具材にかける、いかにも火力の強そうな専用機械がフランスの一般家庭にあるわけではない。
(2)食卓を囲む各人が小さな目玉焼き器みたいなフライパンで、その都度、必要な量のラクレットを、好みの焼き加減で焼く、ということ。
(3)フランスでも、あのアルプスの少女ハイジのおじいさんが「ゴトッ」と音をさせて置いているような巨大な塊を買うわけではなく、冬になるとスライスした家庭用小ロットのラクレットがスーパーに並ぶということ。

ということで、amazonで購入したのが、こちら。

薄くスライスされたラクレット300g。これなら低温でも溶けやすそうですし、食べたい時に1〜2枚をフライパンに入れるという手軽さです。

ラクレットの材料・分量(2人分)

  • ラクレット(スライス)⋯150g

【具 材】

これは200g分の写真です
  • じゃがいも(小)⋯4〜5個
  • 生ハム⋯100g
  • コルニッション(お好きなピクルス)⋯適量

今回生ハムはハモン・セラーノとコッパを用意しました。もちろんアスパラガスとかブロッコリーといった野菜もありですが、どうもフランスでは、じゃがいも、生ハム(加熱ハムも)が定番で、それに付け合わせがコルニッションやホワイトオニオンのピクルスといった感じらしいです。

チーズフォンデュとラクレットの違いと想定軟化温度帯

まずチーズフォンデュとラクレットの相違点をおさらいします。

(1)カルシウム分含有量=カゼインの網目を連結するリン酸カルシウムの量
グリュイエールチーズ⋯700〜900mg/100g
ラクレットチーズ⋯650〜700mg/100g
なので、メルト性はラクレットの方が若干高いのですが、ほぼ誤差の範囲でしょう。

(2)ラクレットはチーズフォンデュと異なり白ワインやレモン果汁など連結器であるリン酸カルシウムを溶かす酸性物質を混ぜていません。
なので熱によってカゼインの網目が緩くなり軟化していきますが、冷めると固まりやすいでしょう。

そして想定される軟化温度帯ですが、チーズのバルク(中心部)で65〜75℃ぐらいでとろりと流動化すると思われます。これもチーズフォンデュに使うグリュイエール&コンテと大差ありません。
なので、フライパンの表面温度をチーズフォンデュの保温時の温度とほぼ同じ95℃に設定してみます。チーズフォンデュの安定稼働温度よりやや高いのは、ラクレットはフォンデュと違ってずっとフライパンの上に置かれているわけでなく、溶けたらすぐ具材にかけてしまうので、煮詰まったり焦げたりする心配がありません。それを踏まえて流動化速度を若干速めたいという意図です。

じゃがいもを蒸す(茹でる)

その前に、じゃがいもを洗って皮のまま蒸します。(お好みで茹でても)

具材を皿に盛り付ける

皿に、皮を剥いて食べやすいサイズに切ったじゃがいも、生ハム、そしてコルニッション(ピクルス)を盛り付けます。

フライパンを表面温度=95℃に加熱してラクレットを溶かす

フライパンの表面温度を95℃に加熱してラクレットのスライス1〜2枚ぐらいを投入します。

およそ2〜3分ぐらいでトロトロに。軽く泡立っているのが分かります。95℃は、まあまあなところでしょうか。チーズをちょっと焼きたいという方には物足りない温度ですが、逆にそのままにしておいても焦げ付いたりしないところが安心です。

ラクレットが溶けたらじゃがいもにかけて、はい、いただきます!
以上です。
「替え玉」ならぬ「替えチーズ」をしたかったら同じようにラクレットをフライパンで溶かすだけ。
廻神さんによるとラクレットは「フランスの冬の鍋」的存在だそうで、家族や友人と冬の間に3〜4回以上は「ラクパー」を開くとか。
一度作ってみると「たこ焼きパーティー」より手軽な印象です。
でも「タコパー」よりかなり小洒落た空気感。フランスの片田舎に旅して、ひなびたビストロにでも入ったような気持ち良い錯覚に陥らせてくれます。白ワインを飲み過ぎたせいかもしれませんが…

日本ではラクレット専門店でうやうやしくラクレットをかけた皿をサーブされた経験しかないので、もっと「厳かな食べ物」かと思っていたら、とても家庭的な料理なんですね。
ただ本格的な?ラクレットは緑の野菜が少なく「肉肉しい」ので、別にサラダを用意しておくことをお勧めします。
このラクレットもReproレシピとして公開します。Reproユーザーの方はアプリで検索して使ってみてください。

チーズの最適加熱温度

 2回にわたって、さまざまなチーズ料理の最適加熱温度を探ってきました。世界中のチーズの種類は1000以上もあると言われています。それぞれにさまざまな調理法があり、それぞれの最適加熱温度があるのでしょう。
でも構造と成分が分かってくると、ある程度 最適加熱温度に目安がつくようになってきた気がしませんか?
チーズの世界は奥深くて、そして美味しいです。

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