浅漬は自作の白だしで

冷蔵庫にある◯◯だし

 皆さんは冷蔵庫に、市販の「◯◯だし」とか「◯◯たれ」とか「◯◯つゆ」とかってどのくらいお持ちですか?
そのたぐいの物って、味が「甘すぎる」とか、逆に「濃すぎてしょっぱいな」とか、やっぱり流通保存する前提で作られているからか「風味が足りない」とか…
そんな味への不満もさることながら、大抵は1回で使い切れず、しかしながら瓶には
「開栓後は早めの冷蔵庫に保存し、早めにご使用ください」
との但し書きが。「早め」ってどれくらい?と思いながら、ついつい数カ月が経ち、次に使う時には新しいものを買ってしまうはめに。ホントもったいないことこの上ありません。(フードロスしている張本人はかくいう私なのですが…)

きっかけは七草粥

 そこで今回は「白だし」を必要な分だけ自作しようと思い立ったわけです。具体的なきっかけは作家・料理家の樋口直哉さんのYouTube。

なるほど七草粥はかぶだけでも良いんだ…
それに米⋯45g=1/3合で2人分、この少量レシピが良いなあ…

と、さっそく作ってみたのはいいけれど、このレシピに使うかぶはたった1個。
大抵のスーパーでは、「小かぶ」なら6個ぐらいが一束になっていませんか?
少量レシピって便利なんですが、「残りの5個どうするのよ?」となり、まずは「かぶの浅漬」を作ろうと。
色々な浅漬レシピをチェックすると「白だし」を使っているレシピが多いけれど、うちの冷蔵庫には「白だし」も「浅漬の素」もなく。
というか、そもそも市販の「◯◯だし」とか「◯◯たれ」、「◯◯つゆ」みたいなものを何も持ち合わせていません。
化学調味料系もほぼ無く、あるのは「鶏がらスープ顆粒」ぐらいかな。

今年の抱負 ーだし・たれ・つゆ系はすべて自作

 昨年末は、そばつゆを自作しました。


さかのぼって昨年の春には、うどんつゆも自作しています。

これを契機に今年は◯◯だし・◯◯たれ・◯◯つゆ系をすべて自作しようかな…

白だしとは?

白だし発祥の地 愛知県碧南市の七福酒造さん(本社は安城市ですが)

 wikiを見ると、つまりは「めんつゆ」の色が薄くてしょうゆ味と甘みが少なめの万能調味料ですね。やっぱり歴史的にはみりんや白しょうゆの本場 愛知県碧南市で、ヤマシン酒造さんや七福酒造さんが発祥です。
酒とみりんを煮きりながら、薄口しょうゆ(もしくは白しょうゆ)少量と塩を加えて、かつお節と昆布の合わせだしや椎茸だしを合わせたもの。希釈して使うことが前提なのでストレートだと、それなりにパンチがある濃い味です。多くの自作レシピでは仕上がり量が400mlを目指しています。
この量だと作りやすいのですが、当然保存料も入っていないので、もっと少ない量にして数日で使い切りたいところ。なので今回は半分にして、仕上がり量=200mlを目指します。
それではさっそく白だしを作っていきましょう。

白だしのレシピ

白だしの材料・分量

  • かつお節と昆布の合わせだし⋯150ml
  • 酒⋯50ml
  • みりん⋯50ml
  • 薄口しょうゆ(白しょうゆ)⋯大さじ1(50ml)
  • 塩⋯大さじ1/2(9g)

ちなみに合わせだしについては以下の別レシピを参考にしてください。



また作る分量が非常に少ないので、鍋は直径12cmのものを使っています。できるだけ小さいミルクパンのような鍋で作ることをお勧めします。

酒とみりんのアルコール分を飛ばす

 最初の工程は、酒とみりん(合計100ml)を沸騰させてアルコール分を飛ばす作業です。「小さい鍋で…」と言いましたが、直径12cmでもこの高さです。
さらにこの工程には大きな問題が…

アゼオトロープ(共沸)効果で沸点が下がります


昨年末のコラム記事で触れていますが、沸点の高い液体(=ここでは水)に沸点の低い液体(=ここでは酒やみりんに含まれるアルコール分)が混ざっていると、沸点の高い液体からすると沸点が下がる、沸点の低い液体からすると沸点が上がるというアゼオトロープ(共沸)効果が起きます。普通の煮物の場合は煮汁という大量の水分の中に、少量のみりんなどのアルコールが入っているだけなので、あまり気にならないのですが、今回の工程は、酒とみりんだけなので通常よりアルコール濃度が高いわけです。
エチルアルコールの沸点=78℃。
今回使ったみりんはアルコール分が13〜14度、酒は14度でした。一方でみりんに含まれる糖分は沸点を上げる効果があるので、このあたりを計算すると、この液体の沸点は90〜92℃ぐらいになるはずです。90〜92℃と言っても、水の100℃と同じで本当にグツグツの沸点のこと。実際には80℃を超えた(=エチルアルコール単体の沸点を超えた)あたりからグツグツ始まるはずです。

Reproの初期加熱アルゴリズム

一方、Reproで常温の水(煮汁)を沸点近くまで加熱する時の加熱曲線は、このグラフのようになっています。90℃前後まではフルスロットルで加熱し、そこから急速に減速(イーズアウト)して、最後は目標温度からオーバーシュートしないようにソフトランディングしていきます。
この仕組みは通常の煮物調理では、効率的かつ安定的に目標温度に到達する加熱アルゴリズムですが、あくまでも前提は「水温=煮るものが水(もしくは水に準ずるもの)」の場合です。
つまり今回の場合(=酒とみりんの混合溶液)だと、フルスロットルに近い状態のまま共沸の沸点に接近するため、「突沸」する危険性があります。

「それなら最初から目標温度を92℃ぐらいに低く設定すれば?」

と、お考えになる向きもいらっしゃるかもしれませんが、そこがアゼオトロープ(共沸)効果の難しいところ。
アルコール分が蒸発するのにともない沸点も上昇していく(=あまりグツグツしなくなる)ため、目標温度を下げると今度はなかなかアルコールが飛び切らない、と言う事態に。

そして当然ながらこの現象は普通のガス火やIHを使って「ひと煮立ちさせる」というありふれた工程でも起きています。ただ気付いている人は思いのほか少ないと言うだけで。

酒やみりんを煮切る時の火加減

 ということで、つまりは だしや水が入っていない酒やみりんだけを煮切る時の注意点は以下のとおりです。

(1)通常のガス火やIHコンロで加熱する時は、弱火で加熱し始めて、グツグツが減ってきたら火力をやや強める。
(2)Reproの場合は沸騰アクションで加熱を開始し、開始直後に一定火力フェーズに強制移行させる。

Reproでの対処方法

(1)は容易にご理解いただけると思います。(2)についてはReproユーザーだけのお話ですが、理屈を簡単に説明すると以下のとおり。

このグラフは、前のグラフと異なり縦軸が温度ではなく出力(W数)になっています。Reproの沸騰アクションを使用した場合、97℃までは通常の加熱(目標水温を設定した加熱)と同じアルゴリズムで加熱しますが、原則97℃に達すると「温度を一定に保つ」のではなく、火力を一定に保つ「一定火力フェーズ」に移行します。
この時の火力(沸騰レベル)を適正に設定した上で、97℃になるより遥か前、加熱開始直後から強制的に一定火力フェーズに移行させて、いわば「強制的な弱火」にしてしまいます。

強制フェーズ移行の方法は簡単です。スタートボタンを押して加熱を開始したら すぐに写真の「OKボタン」を長押ししてください。それだけで一定火力フェーズに移行します。

沸騰時間の目安は約2分間

話がだいぶ横道にそれてしまいました。白だしの話にもどりましょう。
まずアルコール分を飛ばす沸騰時間の目安は約2分間です。(さっきのアゼオトロープ効果により実は100%アルコールを飛ばすことは困難なのですが…)

塩を混ぜる

このアルコール分を飛ばす2分間の間に塩を投入して、よくかき混ぜます。わずか100mlの溶液に大さじ1/2(9g)の塩はかなりの濃度です。溶けにくいのでご注意を。

キッチンは理科実験室

塩を入れると、今まで鍋底からグツグツしていた泡が、突然煮汁全体に広がり、細かい泡に変わります。
これまでは鍋底のミクロの傷?が気泡を作るきっかけになっていたのに、塩の粒が代わって気泡を作る核になったからです。液面全体に細かい泡が広がるので、一瞬吹きこぼれるのかな?と心配になりますが、すぐにかき混ぜれば たぶん大丈夫。実際には塩は沸点を上げる働きがあるので、かき混ぜて塩の粒を溶かしてあげればすぐ元の状態に戻ります。
つまり日ごろ見ている「沸騰」という現象は、上空を浮遊する微粒子(エアロゾル)が核(きっかけ)になって雨粒や雪の結晶ができるのと同じような現象(=沸騰核生成)だと言うことが分かります。
たかが酒とみりんを煮切るだけで、高校の化学で教わるアゼオトロープ(共沸)から沸騰核生成まで、「沸騰」という現象のさまざまな側面を観察することができるわけで、まさにキッチンは理科実験室。
小学校とか中学・高校の調理実習なんて理科の授業としてやればいいのに、とすら思ってしまいます。(笑)


「沸騰核生成ってなに?」という方はこちらのコラム記事をごらんください。

だしとしょうゆを投入してひと煮立ち

約2分間アルコール分を飛ばして、塩も溶け切ったらいったん火を止めて、だしと薄口しょうゆ(白しょうゆ)を入れます。そして改めて軽くひと煮立ちさせたら「白だし」の完成です。あとは粗熱を取り、冷蔵庫で冷やして使います。

かぶときゅうりの浅漬のレシピ

白だしができたので、次はこの白だしを使って「かぶときゅうりの浅漬」を作ります。

かぶときゅうりの浅漬の材料・分量

  • かぶ(葉付き)⋯1個
  • きゅうり⋯1本
  • 白だし⋯大さじ4(60ml)
  • 炒りごま⋯適量

かぶは半月切り きゅうりは斜め薄切り

かぶの実は4mmぐらいの半月切りに、かぶの葉は細かく小口切りに。
きゅうりは厚さ3mmぐらいの斜め薄切りにします。

白だしと合わせる

ボウルで白だしと合わせて、よく揉み込みます。もちろんこの工程は冷凍用保存バッグ(つまりはジップロック)やビニール袋でやってもOK。

冷蔵庫で30分以上なじませる

できれば冷蔵庫で30分以上はなじませたいところ。こんな浅漬容器があれば活用して、なければビニール袋でもOKです。

炒りごまを振りかけて完成

最後は炒りごまをたっぷり振りかけて完成です。ごまをたくさんかけるとさらに美味しさが増します。
塩味が濃すぎたり、甘すぎたりもせず、だしの風味も豊かに残っていますし、やっぱり市販の商品とは違う「手作りの味(もしくは出来たての味)」がします。率直に美味しいです。

普段からだしをひいている方だったら、「白だしが欲しいな」と思ったタイミングですぐにできますし、お勧めです。


Reproレシピを公開しておきましたので、Reproユーザーの方は、このレシピをアプリで検索してみてください。
と言っても、かぶはまだ4個残っているのですが…

【おまけ】アゼオトロープというお酒のはなし

 これまでは沸点が変化することにフォーカスしてアゼオトロープ(共沸)効果を話してきましたが、そもそもは2つ以上の液体を混ぜるとアゼオトロープ(共沸混合物)という、蒸留によっては組成比が変えられない、「沸点の極値を取る液体ができてしまう」ことが工業的にはもっとも重要な意味です。
蒸留酒などの業界では特に重要で、アルコールと水の沸点が一緒になってしまうので、アルコール分が95%ぐらいになると残り5%の水?が普通の蒸留では分離できないことを意味します。言い換えれば普通のやり方では、アルコールは95%までしか精製できない、ということです。

でも、だからこそ逆にそれをシンボリックな意味に捉えて、お酒の名前にしているメーカーさんがあることを発見しました。
そのシリーズの名前はまんま「Azeotrope」。
「共沸」はいったいどんな味がするのでしょう…

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