欧州ではアスパラ祭りの季節 アスパラガスのヴルーテ

アスパラガスにまつわるエトセトラ

 最近は1年中スーパーに出回っているグリーンアスパラガスに対し、缶詰じゃない生のホワイトアスパラガスを見るのは主に5〜6月だけ。
そもそも昔は、ホワイトアスパラガスと言えば缶詰が定番。グリーンアスパラガスに至っては見たことない、って感じでした。それもそのはず、ホワイトアスパラガスは大正時代から栽培されていたそうですが、グリーンアスパラガスが栽培されるようになったのは1970年代から。ちなみにホワイトアスパラガスの定番が「缶詰」だったのは、痛みやすく流通が難しい一方で、ヨーロッパではグリーンアスパラガスよりホワイトアスパラガスの方が美味しいと人気があり、缶詰が売れていたのを日本でも真似したとか。

ヨーロッパではホワイトアスパラ祭り

 ちなみに日本でシンコ(=コハダの子ども)の旬だの、サンマの旬だの、松茸の旬だのと言って大騒ぎして、びっくりするような値段になったりするのと同じで、ヨーロッパでは、ホワイトアスパラガスの旬には、さながら「祭り」だそうです。どのぐらい祭りかと言えば、「アスパラガス専用鍋」という調理器具が存在するほど。年数回のためだけに出動する専用鍋って…(あっ、でも日本にも松茸の土瓶蒸し用の「土瓶」があるか)
そしてこのアスパラガス専用鍋、なんと日本のAmazonでも売っていました。
ステンレス製 アスパラガス鍋
遥か極東の地にも熱烈な「ホワイトアスパラフリーク」はいらっしゃるようです。

ホワイトアスパラガスとグリーンアスパラガスは同じ品種

 そもそもホワイトアスパラガスとグリーンアスパラガスは同じアスパラガス。ホワイトアスパラガスは土を被せたり遮光して育てたもので、つまりは「アスパラガスのもやし」です。その分、栽培に手間がかかるし痛みやすいのでグリーンアスパラガスより値段も高くなりがちです。でもこの季節しか生で出回らないのなら、気分はもうフランス人やイタリア人やドイツ人になりきって「高級食材」の祭りを楽しみませんか?

アスパラガスのヴルーテ


以前のコラム記事で、
「ヴィシソワーズはじゃがいもの冷たいスープではなく、ポロねぎのスープ」
と教えられて以来、故ジョエル・ロブションさんを改めて尊敬しています。

ジョエル・ロブションのすべて

そして絶版になった「ジョエル・ロブションのすべて」は事あるごとにバイブルのように読んでいます。(ちなみにこの本2023年に誠文堂新光社から「新版 ジョエル・ロブションのすべて」として再発刊されているようです)
で、この本にありました。高級食材たる?ホワイトアスパラガスをぜいたくに使った最高のスープのレシピ。

ヴルーテとは「ビロードのように滑らかな」

 ヴルーテとはフランス語で「ビロード(ベルベット)のように滑らかな」という意味で、ソースやスープなどに使われますが、つまりは素材を「裏ごし」するなどして、食感を滑らかで軽くします。
おお〜さすが「フレンチの皇帝」。ヨーロッパのシンコ ホワイトアスパラガスを裏ごししてしまうとは…
ちょっとぜいたくかな?とためらいつつも、このレシピを読むと実に美味しそうなんですよ。
そして最後の工程を追加するだけで、温かいスープにも冷製スープにもなるというお得感。その誘惑に勝てず、つい作ってしまいました。

先に注意しておきますが、材料のホワイトアスパラガスはできるだけお得感のある八百屋さんやスーパーで調達してください。東京だと、それでも3,000〜4,000円(2人分)が目安です。
間違えて高級スーパーなんか行った日には8,000円ぐらいかかってしまうかも。(北海道の道の駅とかだと材料費200円ぐらいで調達できてしまうかもしれませんが)
さあ、清水の舞台から飛び降りる気持ちで、一緒に「ホワイトアスパラガス祭り」を楽しみましょう!

材料・分量

(2人分)元のレシピの半量で作っています。

  • 鶏のフォン           500ml
  • ホワイトアスパラガスの軸(茎) 500g
  • グラニュー糖(角砂糖1/2)    1.5g 
  • 生クリーム           125ml
  • 卵黄               1/2個
  • 塩               適量(2gぐらい)

※鶏のフォンは、分量の水と固形コンソメ1/2個か市販の鶏だしで代用できます。
※ホワイトアスパラガス約650gで軸の部分が500gになります。目安にしてください。

【水溶きコーンスターチ】

  • コーンスターチ   15g
  • 水         20ml

【浮き実】

  • ホワイトアスパラガスの穂先   2本

下ごしらえ

ホワイトアスパラガスを3cm幅の輪切り(トロンソン)に

 まずは下ごしらえです。洗ったアスパラガスの穂先と、一番根元の汚れた部分をカットし、軸の部分を3cm幅に輪切りにします。写真が約500gの分量です。約650gのアスパラガスで500g分の軸が取れるかんじです。

ふたをして20分煮る

鍋に500mlの鶏のフォン(もしくはブイヨン)を入れ沸騰させます。今回は液体鳥だしの「日本スープの濃厚丸どりだしDX」1袋を500mlに薄めて(約2倍希釈)使いました。

フォンが沸騰したら、アスパラガスとグラニュー糖を投入します。元レシピには「角砂糖」とありますが、今どき角砂糖もなかなか見なくなったので…

そのままふたをして20分煮ます。ふたをしているため吹きこぼれしやすいので火力の調節には気を付けてください。

ミキサーにかけて裏ごしする

ふたをしているので、ほとんど蒸発量はないとはいえ、元々500gのアスパラガスの軸と500mlのフォンなので合計約1kgあったはずの鍋の中身は、947gに、つまり50g強減っていました。

鍋の中身をミキサーにかけますが、実はここが、このレシピの最大のポイントです。

ミキサーにかけるのはほんの少しだけ。決してかけすぎないこと。

写真でもうっすら分かるかもしれませんが、まだアスパラガスの残骸がちょっと残っている状態です。

Vitamix E310

今回はVitamix E310を使っていますが、この強力なミキサーの場合、
「目盛り3で5秒くらい」
が限度。
そもそもホワイトアスパラガスは柔らかい食材。本当にミキサーにかける必要があるのかな?と思うぐらいです。というのも、

ミキサーにかけたものを裏ごしするのですが、残骸が残る程度にミキサーにかけても柔らかくなり過ぎて、おたまの裏やスプーンの裏で押すのがとても大変です。
こんな時はシノワがあったら便利だなあ…と。

ちなみにミキサーにかけ過ぎたのがこちら。写真では分かりにくいのですが、すでにエスプーマの泡みたいなフカフカな状態になっており、押し付けて煮汁を絞り出すどころか、非常に目の細かいストレーナーでも、粉砕されたアスパラガスの粒子が素通りしてしまうかんじです。
グリーンアスパラガスの場合は、こんなふうにはならないんですけどね…
なのでミキサーのかけ具合はくれぐれもご注意ください。

ふたをあけて30分で半量に煮詰める

ミキサーにかける前に947gあった鍋の中身は、裏ごし後に627gになっていました。シノワがあれば、もうちょっと濾し取れたかもしれませんが…
この627gを、今度は鍋のふたをせず30分加熱し、半量(=約314g)に煮詰めるのが目標です。Reproでは「沸騰レベル+0.0」で煮ています。
この「沸騰レベル+0.0」という火力は、沸騰基準火力とも呼ばれ、

沸騰基準火力=「基準水量の水が微沸騰する火力」

と定義されています。
つまりはReproであろうが、ガス火であろうが、他のIHコンロであろうが、ほんの少しだけ沸騰の泡が出ているような状態で静かに煮ているということです。
で、30分間微沸騰させて煮詰めた結果は、なんと「315g」。ほぼ半量になっています。
元レシピの正確さがすごいな…

卵黄と生クリームをホイップしておく

30分間煮ている間に、ボウルに卵黄と生クリームを入れて、ウィスク(ホイッパー)でホイップしておきます。またコーンスターチは「水溶きコーンスターチ」にしておきましょう。

コーンスターチでとろみを付ける

30分煮たら火から降ろさず、ウィスク(ホイッパー)でかき混ぜながら、少しづつ水溶きコーンスターチを加えていきます。
コーンスターチを加えたら1分間そのままかくはんを続けとろみ付けをします。

鍋のスープを生クリーム・卵黄と合わせる

1分間かくはんしたら、鍋の中身をボウルに移し、さらにウィスク(ホイッパー)でかき混ぜ続けます。

すべてを鍋に戻して塩加減を調整

卵黄・生クリームとスープが混ざったら、もう一度鍋に戻して加熱しながら、シリコンへらなどを使ってかき混ぜ、最後のとろみ付けをします。この時に味見をしながら塩を適量入れて塩加減も調整します。Reproレシピでは目安として塩=2gとしていますが、そこはお好みで。

軽く沸騰してきたら再度ミキサーへ

鍋の中身にとろみが付き、軽く沸騰してきたら火から降ろし、再度ミキサーへ。軽くミキサーにかけて泡立てます。

別の鍋で、1分間湯通ししたホワイトアスパラガスの穂先を縦2等分にカットしてスープの上に乗せれば完成です。(ちなみにアスパラの穂先はスープに沈むので、スープ皿の深さにはご注意を)

美味しいです!初夏の味覚です。2回もミキサーにかけただけあって軽い仕上がりの上品なスープになっています。いくらでもいただけそうです。
ちなみに仕上がりの分量は、414gでした。シノワがあってもう少し裏ごしがうまくいったとして、仕上がり量450gぐらいでしょうか。1人前200gと、ほんの少しの予備と見れば、この元レシピの再現性はほぼ満点です。改めてすごいな…

アスパラガスの冷製クリームスープ

 元レシピでは、アスパラガスのヴルーテを常温で粗熱を取り、冷蔵庫で3時間冷やした後に、生クリームを50ml追加し、ハンドミキサーを数秒回すと「アスパラガスの冷製クリームスープ」になります。これもまた美味しそうですねえ。

余った穂先は茹でるとかソテーとか…

このレシピの残念なところは、大量のホワイトアスパラガスの穂先が余ること。とても美味しいので茹でたり、ソテーしていただきましょう。この写真を見ると2人分のヴルーテを作るのにホワイトアスパラガス11本も使ったんですね…

エスプーマを使ったら

 ロブションのレシピを見る限り、とにかくヴルーテは、滑らかで軽く、を目指して気泡を作ることに執心している感があります。今どきのレストランだったら最後にもう一度ミキサーが出動するぐらいならエスプーマを使ったりするんじゃないかな?と思い、ミキサーの代わりにエスプーマで泡立ててみました。(残念ながら日本では一般家庭で使えませんが)

これが最後のミキサーの代わりにエスプーマで泡立てたバージョンです。増粘剤などは一切加えていません。気泡がミキサーで立てるより大きく見えますが、増粘剤が入っていないので、すぐに細かい泡に変わります。本当は70℃のお湯でディスペンサーごと30分ぐらい湯せんしながら休ませてあげれば仕上がりが良くなるのかも。
いずれにせよ、まあエスプーマでもいけるかな、という感じですね。でも…

ディスペンサーに入れたまま冷蔵庫で冷やしたアスパラガスのヴルーテをエスプーマしてみるとごらんの通り。「もこもこ」になってしまいます。

そもそもエスプーマなんか使っていなくても、アスパラガスのヴルーテを冷蔵庫で冷やすとコーンスターチのデンプン分子が「レトログラデーション(老化)」を起こし再結合するのか、もっさりしてしまいます。70℃ぐらいに温め直してもその状態は変わりません。
一度ウィスク(ホイッパー)でかくはんしながら軽く沸騰させて、改めてミキサーにかければデンプン分子の網目構造が壊れてゆるくなるかもしれませんが、今度はとろみが安定せずシャバシャバになり過ぎる危険性も…
冷蔵庫に入れることが前提なら、初めからコーンスターチの量を15g→10gぐらいに減らしておくか、元レシピの冷製クリームスープのようにさらに生クリームを加えてのばした方が仕上がりが良いのかもしれません。(今度、実験してみます)

グリーンアスパラガスのヴルーテ

 そもそも、このスープを作ろうと思ったきっかけは、北海道の道の駅で、最初からトロンソン(本当は単なる切り落としです)になっているグリーンアスパラガスの軸が、
一袋(約300g)=100円
という超お買い得価格で売っていたから。
見た目の色味はちょっとアレですが、グリーンアスパラガスでヴルーテを作ってもけっこう美味しいですよ。
ヨーロッパではともかく、北米などアスパラガス新興国ではホワイトアスパラガスよりグリーンアスパラガスの方が人気という話もあり「たかだかスープの材料に4,000円はなぁ…」という向きにはこちらを。北海道の道の駅で買えば200円+生クリーム代でほぼ材料は揃います。(穂先がありませんが…)

ということで、「アスパラガスのヴルーテ」のReproレシピを公開しておきます。Reproユーザーの方は公式アプリで検索して、Reproでチャレンジしてみてください。

Reproユーザーへ 沸騰設定について

ここからはReproユーザーの方に向けて「沸騰設定」の使い方について説明を。今回のReproレシピをごらんいただくと、最初にセッティングモードから沸騰設定に行き、そこで「沸騰設定温度」という項目を変更しています。「これって何のおまじない?」って話です。

加熱アクションとは

上の図は、Reproにおける「加熱アクション」の動作を示したグラフです。
加熱アクションとは「◯◯℃で△△分加熱する」というReproの基本的な動作。これは冷たい水を99℃にする時の、縦軸に温度、横軸に時間を取って温度変化を表したグラフです。
Reproでは、冷たい水を加熱して設定温度(=99℃)にするまでを「初期加熱フェーズ」、99℃に達して、そのまま99℃をキープする段階を「保温フェーズ」と呼び、区別しています。(実際に内部動作もこの2つのフェーズで異なります)
では「沸騰アクション」では?

沸騰アクションとは

こちらのグラフは縦軸が火力(W数)、横軸が時間を表しています。「沸騰アクション」では、外部センサーを使用した場合、デフォルトで97℃までは加熱アクションの初期加熱フェーズと同じ動作をします。ただ97℃に達した後は、加熱アクションのように「温度一定」ではなく「火力が一定」になります。簡単に言えば97℃に達したら、普通のIHコンロのように火力が一定になり、温度コントロールはしないということです。
この97℃に達して以降を、加熱アクションの「保温フェーズ」に対して、「一定火力フェーズ」と呼んでいます。
どうして沸騰アクションというものが必要なのか?一言で言えば、料理を作る時に、「温度を一定にしたい」と言う時もあれば、「温度はどうでも良いからぐつぐつ具合を一定にしたい」という場合もある、ということです。詳しくはこちらのコラム記事を読んでみてください。

沸騰設定温度とは

今、外部センサー使用時には初期加熱フェーズから一定火力フェーズに移行する温度はデフォルトで97℃と説明しましたが、本体センサー使用時にはデフォルトで95℃になっています。この97℃とか95℃とかを「沸騰設定温度」と言います。
97℃にせよ95℃にせよ、そこまでは一気に加熱するので、それなりにぐつぐつにはなります。なにせ「沸騰」アクションですから。
ですが、設定したい火力(沸騰レベル)がとても弱かったら=すごく弱火でコトコト煮たかったら、強火でぐつぐつ加熱された後、97℃(もしくは95℃)になったら急に弱火になるという本末転倒な挙動になってしまいます。

沸騰設定温度選択

そこで登場するのが、「沸騰設定温度選択」という機能です。例えばフレンチでコンソメをクラリフィエ(仕上げに澄んだスープにする工程)する時など、水面がほんの少しゆらゆらするぐらいの微妙な沸騰加減を要求されます。そんな弱火で微妙な沸騰具合を実現したい時に、デフォルト97℃(95℃)の沸騰設定温度自体を変更することができるのが「沸騰設定温度選択」機能です。

今回は、デフォルト95℃の沸騰設定温度を92℃に下げたので、92℃に達したら自動的に「一定火力フェーズ」に移行します。すると、ぐつぐつ→コトコトにならず、終始コトコトのまま煮詰められるようになります。
普段の料理ではあまり必要ありませんが、かなり繊細な火加減(一定のコトコト具合)を要求されるような料理(フレンチに多いですかね)には必要な機能だと言えます。
沸騰設定を使いこなして、ワンランク上の料理にぜひチャレンジを!
沸騰設定の詳細については、こちらのコラム記事をごらんになってください。

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