温度ドロップのおはなし

春になると思い出すのが宇多田ヒカルさんの「SAKURAドロップス」。ハラハラと舞い落ちる桜の花びらが見えてくるような素敵な表現です。(この曲のおかげで「SAKUMAドロップ」がかなり売れたと聞いています)
そう言えば「うさぎドロップ」ってまんがもありましたね。このドロップの意味は分かりませんが、主人公のりんがおじいちゃんと死に別れる冒頭シーンの、りんの悲しみの涙のことを「ドロップ」と表現したのかな…
料理家樋口直哉さんがかつて書いた青春小説(後に映画化もされましたが)にも「大人ドロップ」というのがありましたね。映画しか見たことないけど「肝油ドロップ」の缶が懐かしかった。肝油ドロップは早く大人に成長するためのドロップってことなのかな…
と、とかく詩的なイメージが漂う言葉「ドロップ」ですが、料理における「温度ドロップ」だけは、ポエム感ゼロで「嫌われ者感」が漂います。
ところで なぜ唐突に、「温度ドロップ」なのかと言えば、ネットで最近2つの記事を見たからです。


 

まず一つ目は料理家樋口直哉さんが東洋経済ONLINEで連載している『樋口直哉の「シン・定番ごはん」』シリーズの『少ない油で簡単「カリカリの唐揚げ」家で作るコツ』。
いわゆる「シャローフライ(少ない油で揚げる揚げ物)」の代表選手ですね。
よくおうちでやるフライパンにちょっとだけ油を入れて唐揚げを作るというアレの出来栄えをベストにするレシピですが、こんな少ない油で揚げ物をしたら強烈な「温度ドロップ」が待っているはずです。



おうちで料亭ごはん
vol.7
木乃婦


コロナ禍の中、京料理の魅力を伝え、技を生かして家庭の食卓を豊かにしてもらおうと、京都の料理人たちが旬の食材を使ったレシピ


the.kyoto

そしてもう一つがTHE KYOTO Projectがコロナ禍の時に立ち上げた「おうちで料亭ごはん」シリーズで、名店「木乃婦」の高橋拓児さんが公開していた「賀茂なすのしぎ焼き」のレシピです。こちらもレシピ詳細はサイトをごらんいただきたいのですが、あの大きな賀茂なすを2等分して、いっぺんに揚げてしまいます。おうちで用意できるぐらいの油量でみずみずしい賀茂なす1個分を揚げたら、どれだけの温度ドロップが待っているか…
こちらはいわゆる「ディープ・フライ(たくさんの油で揚げる揚げ物)」の代表選手として選びました。

Reproで作った「賀茂なすのしぎ焼き」

 ですが、当然ながらお二人とも「料理の達人」。
心配せずとも温度ドロップをうまく使いこなして実際には素晴らしい一品に仕上げているわけです。
それは、
「このフライパンや揚げ鍋で、このぐらいの油量と具材の量で、このぐらいの火加減で揚げると、こんなかんじになるだろう。」
と言うのを熟知しているからこそできるワザ。つまりは頭の中で「温度変化グラフ」が見えているのでしょうね。
でもこれが素人だと、そうそう うまくはいかず生焼けになったり、焦げ付かせたり、ということも…

Reproには一定以上温度ドロップすると自動的に最大火力で元の温度に戻す機能があります

ちなみにReproには一定以上の温度ドロップが発生すると、フルスロットルで元の温度に戻そうとする機能がありますが、それでも瞬時に補正しきれない大きなドロップが発生することもあります。
料理を作る上で「温度ドロップ」は避けて通れない問題。今回は樋口さんと高橋さんのレシピを題材に、フライパンや鍋の中で一体どんな温度変化が起きているのか?を検証しつつ「温度ドロップとのうまい付き合いかた」の第一歩、「どれくらいドロップするの?」を体感できたら、と思います。

美味しくなるTIPS詳細は元レシピのサイトで

それではまず、樋口さんの「カリカリの唐揚げ」から。
このレシピはしょうゆや砂糖に加えて、「ネギ姜水」を加えるなど唐揚げを美味しくするTIPSが満載ですが、それら下ごしらえの詳細は元のレシピをごらんください。
今回の温度ドロップ実験にとって重要な部分は「揚げる温度」。
以下が樋口さんレシピの概要です。
(1)170℃ 中火で2分〜2分30秒揚げる。
(2)裏返して弱火にして2分揚げる。
(3)網などに取って2〜3分余熱で火を入れる。
(4)190〜200℃の油で1分間 二度揚げして表面だけカリッとさせる。

一度に揚げる鶏肉は8切れ(約200g)

一度に揚げる鶏肉の量も重要です。元レシピでは250〜300gの鶏もも肉を11切れにカットしていますが、写真を見ると一度に入れているのは8切れ。なので8切れ=約200gの鶏もも肉を揚げることにします。

フライパン=直径18cm 油量=200mlと勝手に推測

フライパンは元レシピの写真から直径18cmぐらいと判断。油の量も元レシピの写真から200mlと勝手に決めました。

ディープフライの場合は油温ターゲットで外部センサーを使用

Reproで揚げ物をする場合、通常は油温ターゲット(つまりは油温を温度コントロールする)で外部センサーを使い加熱します。
しかし今回はフライパンに少量の油で揚げる、いわゆる「シャローフライ」。外部センサーをセットできないので、表面温度ターゲット(つまりはフライパンの表面温度をコントロールする)で加熱することに。
事前に実験したら、表面温度ターゲットで目標温度を180℃にセットして、油をかくはんしながら2分間ぐらい加熱すると、油温がおおよそ170℃になることが分かりました。

カリカリの唐揚げの一度揚げ部分マルチステップ

ということで、樋口さんの「カリカリの唐揚げ」の一度揚げ部分をReproのマルチステップに仕立ててみました。
まずSTEP01は表面温度180℃で2分間。かくはんしながら加熱すればフライパンの油は170℃になるはずです。
STEP02で8個(約200g)の鶏もも肉を投入してスキップボタンを押し、
STEP03で2分30秒間加熱します。まずはここでどのぐらい温度ドロップが生じているのかを計測。
元のレシピでは、2分〜2分30秒間揚げて、鶏もも肉を裏返しにしたら弱火に落としていますが、これはガス火の場合そのままの火加減だと温度がどんどん上がってしまうので、弱火に落とした狙いは温度を下げるためではなく、これまでと同じ温度をキープするためと、樋口さんの意図を勝手に忖度。なので、
STEP04は、同じ180℃で2分間加熱することになっています。
このSTEP03〜STEP04の一度揚げの部分の温度ドロップ実験の結果を動画にまとめておきました。

と、この動画のとおり、なんと170℃でシャローフライすると二度揚げの一度揚げパートにぴったりの140℃に温度ドロップすると言う絵に描いたような結果に終わりました。
さすがです!「確信犯」と言うか「温度ドロップの魔術師」と言うか…
Repro開発チームとしては「Reproを使って少しでも温度ドロップを減らしましょう」と言いたいところですが、シャローフライをする以上どんなコンロでも温度ドロップが発生することは避けられません。
それならむしろ積極的に温度ドロップを利用すべき。」と教えてくれているのがこのレシピ。
いろんな食材と油量で実験したわけではないので正確な法則性は明言できませんが、今回の実験では「200mlの油量で170℃にし、200gの鶏肉を入れると油温は約30℃下がる」という結論。今後、フライパンで揚げ物をする時の目安にします!

それでは次は、京都の名料亭「木乃婦」の高橋拓児さんのレシピ「賀茂なすのしぎ焼き」です。こちらも「動画を見た方が早い」という方は動画を見てしまってください。

「動画より文章で…」という方には、まずはレシピの中味をざっくりと。

まず材料は、賀茂なす1個(2人前)。約300gのものを用意しましたが、元のレシピでは、もう少し大きいもののように見えます。

これの成口とへたを切って2等分し、側面の皮に包丁めを細かく入れ、表側は竹串で穴をたくさんあけ、裏側は十文字に包丁を入れておきます。

後は、元のレシピでは「賀茂なすを表裏返しながら165℃で5分間ぐらい揚げる」となっています。実験では元レシピの画像を見てサイズが最も近そうだった24cmの揚げ鍋に1.3Lの太白ごま油を入れて、いっぺんに2切れの賀茂なすを入れてみます。

165℃5分間揚げるマルチステップ

ちなみにReproのマルチステップとしてはごらんのとおり。それではサーモグラフィカメラで撮影した画像と温度変化グラフを。

165℃5分間を設定して賀茂なす2切れ(1個分)を揚げた場合の温度ドロップ

165℃あった油温は急激に下がり、1分半後には16.1℃ドロップした148.9℃の最低油温を記録した後、徐々に上がっていきますが、結局165℃に戻るのは揚げ終わる5分後になってしまいます。

コンパネの出力インジケーターは最大出力を表示

この間、Reproは温度ドロップを解消しようと5分間ほとんどフルスロットル状態なのですが、300g近い水分を含んだ冷たい賀茂なすを165℃に加熱するには至っていません。言わば「自動温度ドロップ補正機能」が実装されているReproでさえ、元のレシピの「165℃で5分間ぐらい」を忠実に再現しようとしても、5分間平均値で見れば、目標温度より8.2℃も低い
「156.8℃で5分間」
になってしまいます。ましてや一定火力で加熱している(=自動温度ドロップ補正機能がない)普通のガス火やIHコンロの場合、温度ドロップはさらに大きくなっているはずです。

Reproで賀茂なす2切れを165℃5分揚げたもの

実際、Reproで揚がった賀茂なすを、元レシピの動画と見比べて見ると、明らかに火が入り過ぎています。高橋さんはガス火で揚げていますから、実際にはもっと低い温度で揚げられているのだと想像できます。
そこで思い切って目標温度を10℃下げた155℃ 5分に設定して、もう一度揚げてみました。

165℃→155℃ 5分間を設定して賀茂なす2切れ(1個分)を揚げた場合の温度ドロップ

当然ながら熱を伝える媒体(この場合は油)と投入する具材の温度差が大きいほど温度ドロップは大きくなります。ですから目標温度を165℃→155℃に10℃下げるだけで温度ドロップは目に見えて小さくなります。155℃の場合、温度ドロップは-7.4℃で、最低温度は147.6℃。165℃の場合の約半分にドロップ幅が減っています。5分間平均値で見ると、目標温度の155℃より3.1℃低いだけの151.9℃になります。

左が155℃ 5分間 右が165℃ 5分間揚げたもの

賀茂なすへの火の入り具合も、かなり元のレシピ動画に近いかんじになってきています。もしかしたら元レシピの「165℃で5分間ぐらい 」は、温度ドロップを加味しなければ、
「152℃で5分間ぐらい」
というのが実際の温度なのかもしれません。

155℃ 5分間を設定して賀茂なす2切れ→1切れ を揚げた場合の温度ドロップ

ちなみに温度ドロップを減らす、最良の方法は「少しづつ揚げる」です。
賀茂なすを1切れだけにして155℃で5分間揚げたグラフがこちらです。これだけで温度ドロップは、わずか-2.7℃。5分間平均値は目標温度より0.4℃低いだけの154.6℃で、ほとんど温度ドロップはなくなります。

シャローフライでもディープフライでも一定以上の量の具材を一気に投入すれば温度ドロップは必ず起きます。
Reproを作っている身としては「Reproを使って、少しづつ具材を入れて正確な油温をキープしながら揚げ物をしましょう」と教科書的なコメントはしつつも、今回の2つのレシピのように温度ドロップをうまく織り込む、というのが本当は正解なのだと思います。
ただこの二人のように温度ドロップと仲良くするためには、使い慣れた道具と油の量と一度に揚げる具材量にそれなりの経験値が必要になるのは間違いありませんが…
【追 伸】
20倍速にしたので分かりにくかったかもしれませんが、サーモグラフィー画像でフライパンや鍋の中でSF的にうねうねして見えているのは「油の温度ムラ」です。油は粘性が高いので180℃ぐらいの高温になっても粘性は変わらず温度ムラがかなり発生しています。Reproを使っていてもいなくても、揚げ物をする時は耐熱性のヘラなどで終始かくはんして、少しでも温度ムラを減らして料理しましょう。

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