
麻布・六本木・赤坂あたりで「蔘鶏湯(サムゲタン)はどこが美味しい?」と聞けば、圧倒的多数の人が麻布十番の「グレイス」を挙げるでしょう。
いや、単なる「地元びいき」じゃなくて、エリアを東京23区に広げてもグレイスが当選かも。
だって日本を代表する蔘鶏湯専門店です。その証拠?にグレイスのドメインは「samgetang.jp」ですよ…

疲労が溜まったり体調がすぐれないと感じたら、アリ◯◯ンVを飲む前に、まずは「グレイス行き」です。(※これは地元びいきに由来する個人の感想です)
目次
タラチヂミがうまい!

で、今さらグレイスの蔘鶏湯の美味しさについて、ここで語る必要はまったくナシ!
今回お話ししたいのは、グレイスのメニューにある「タラチヂミ」なる一品。これがまた美味しくて、蔘鶏湯三昧になる口内を良い具合に「味変」させてくれるのです。
この20年ぐらいグレイスに行くと、蔘鶏湯・マッコリ・タラチヂミの3品しか頼んだことがありません。
で、今日の今日まで、タラチヂミは「チヂミの一種」だと疑念を抱いたことはありませんでした。
しかし改めて観察すると、これって日本人が知っているいわゆるチヂミじゃないですよねえ?
当たり前だと思ってきたこの世界に疑問を抱いてみる。それが新しい真理への扉となる。
(「チ。ー地球の運動についてー」 考えさせられる秀逸なアニメでした…)
そして私は遂にチヂミの正体を知ったのです!(気持ちだけ異端審問にかけられるガリレオ)
正体は鱈のジョン
ヨンジョンさんという韓国料理レシピを紹介している人気ユーチューバーの動画。そこで作られているのは、確かにグレイスでいただく「タラチヂミ」と似通った料理でした。その名は
「鱈のジョン」…
まるで「あしたのジョー」とか、最近のアニメに出てくるSランク冒険者に付けられる「二つ名」のような。
あっ、ちなみにヨンジョンさんは「鱈ジョン」と呼んでいましたが、もうこれだと語感だけでは人名なのか何なのかも想像できません。
チヂミは方言です

ウィキペディアによると「チヂミ」は慶尚道(あの釜山とかがあるところ)などの方言で、われわれがなんの疑念も抱かず食べているアレは、韓国の標準語では「プチㇺゲ」もしくは「ジョン(チョン)」と呼ばれるものだったのです。
なんでも日本に移り住んだ方に慶尚道出身者が多かったので、日本では「チヂミ」が一般名称化したとのこと。
ジョン(チョン)とは漢字だと煎餅の「煎」と書きます。ウィキペディアによれば、
プチㇺゲ⋯食材と溶いた粉を練り混ぜて焼いたもの
ジョン(チョン)⋯食材に衣を付けて焼いたもの
それで広義のプチㇺゲにはジョン(チョン)が含まれるそうなので、グレイスさんがタラチヂミと記載しているのも、あながち間違いではないようです。
ジョンは韓国風ピカタ
ヨンジョンさんの動画を見ると、ジョンは一言で説明すれば「韓国風ピカタ」です。塩などで味付けした具材に小麦粉の衣を付け、最後に卵液をくぐらせて焼いた料理です。自分なりにチヂミとジョンの違いをまとめるとこうなります。
チヂミ⋯高温で焼いて焼色を付け、中はモチモチ、外はカリッと。日本のたこ焼き的発想。
ジョン⋯出来る限り低温で焼いて、たまごの黄色を生かし、決して焦げ目を付けてはいけない。たこ焼きに対比させるなら明石焼き?でしょうか…
ヨンジョンさんも動画の中で、一生懸命ガスコンロの火加減を調節しながら「ジョンは気持ちを込めて、手間のかかる料理です。」と言っていました。
出来る限り弱火… なんともRepro向きな料理じゃないですか!ヨンジョンさんの動画を元にさっそくReproで再現してみましょう。
鱈のジョンの材料・分量

- たらの切り身(すき身たら)⋯2切れ(200g)
- たまご⋯2個
- 薄力粉⋯40g
- 塩⋯適量
- 白こしょう⋯適量
- 太白ごま油⋯大さじ1〜2
ヨンジョンさんの動画ではたまごは1個でしたが、2個ぐらいないと心もとないかと。理由は後で説明しますが、全卵より卵黄だけにした方がお勧めです。
久々の地獄絵図に…
それでは作り始めましょう!と明るく言いたいところですが、実はこのあと、久々に地獄絵図が待っていました。それは追々説明するとして…
すき身たらをそぎ切りに

すき身たらを厚めのそぎ切りに。ただし寿司屋さんがまぐろを切る時に最後の1〜2mmのところで寝かせた包丁を立てて切るみたいに、半分ぐらいまで切ったら包丁を立てて垂直にカットします。
ヨンジョンさんによれば「厚みを揃えるため」とのことで、文章で説明してもなかなか伝わらないので、詳しくはヨンジョンさんの動画を見てください。
塩こしょうして10分間寝かせる

切り身の両面に軽く塩こしょうして5〜10分ぐらい寝かせます。
後で衣が剥がれやすくなるので寝かせて出てきたドリップは丁寧に拭き取ります。
小麦粉は2度付け必須

この後、小麦粉をはたきます。ヨンジョンさんによれば、衣が剥がれるので、小麦粉を付けた切り身を決して重ねて置かないようにとのこと。

そしてもう1回小麦粉を付けます。
卵液をくぐらせてから焼く

韓国風ピカタなので、卵液をくぐらせてからフライパンで焼きます。ヨンジョンさんによればこの時によく卵液を切ってフライパンに置くことがコツ。鱈のジョンは卵液が垂れず、元の切り身の形のままに焼くのが大事だそうです。

油もチヂミと違い少しだけ使い、動画を見ていると普通のごま油ではなく透明な油を使っていたので、太白ごま油を使用しました。
少量の油を薄くフライパンにまんべんなくひきたかったのでティースプーンと耐熱性のシリコン刷毛も用意しました。
のんびりやれば焦らないで作れる
でもここからが地獄絵図の始まりです。ヨンジョンさんは「超弱火で焼くので、のんびりやれば焦らないで作れます」と明るく言っていました。そして確かに動画ではいとも簡単そうに箸で切り身をつまんで焼いていました。たかをくくっていました。
しかし実際には…
卵白をまとった「たらの切り身」はめちゃくちゃ滑ります。
そもそも卵液をくぐらせる写真の時点で、地獄の門もくぐっていました。もし全卵で作るなら完全に卵黄と卵白が一体になるぐらいまで混ぜないとNGです。
いや、それでも滑るのでいっそ卵黄だけで作る方が、簡単で色味もきれいに出ます。ヨンジョンさんによれば鱈ジョンは、たまごの黄色がよく出るようにすべし、とのことなのでその意味でも卵黄のみ使用を強くお勧めします。そして…
火の入った「たらの切り身」はいとも簡単に壊れます。
つるつる滑るのに、強く持つと身が崩れるのでもう呆然自失です。
その時の心境は「初めてスケートリンクに立ち、生まれたてのバンビのように内股でふるふるしてる小学生」、いやもっと緊迫感のある「手術中に誤って太い血管を傷つけ、大量の出血に呆然とする研修医」の如しです。
ごく弱火=100℃
最初はフライパンの表面温度=120℃に設定していたのですが、あまりの難易度に急遽100℃に下げました。
これなら絶対焦げ目が付かず、ゆっくりできます。そしてこの温度なら切り身が滑ってどうにもならない時に素手(ニトリルグローブは装着していますが)とシリコンへらでなんとか事態を収拾できるから。もちろん100℃でも熱いですよ。危ないです。でも短時間ならなんとか我慢できます。というか我慢しました…

ということで卵液をくぐらせた切り身を100℃キープしているフライパンに置きます。こんな感じになるよう卵液はよく切っておきます。
写真だけ見ると初めからうまく出来ているように見えますが、それは失敗した1回目には写真を撮る余裕すらなかったからです。

1分弱ぐらいで裏返しにします。身が反り返りそうになったらへらや箸、手で軽く押さえてあげましょう。すでにこの時点で切り身は結構もろくなっています。
ヨンジョンさんは「時間があるなら3回卵液をくぐらせる」ことを勧めています。
両面1分弱づつ火を入れたら、どうやって卵液にもう一度くぐらせるか?
箸を使うか?へらとターナーを使うか?それとも熱いのを我慢してへらと素手で行くか…
それは各自のご判断で。
3回卵液をくぐらせる

この写真は2ターン目。次第にたまごの黄色が濃くなっていきます。
そして着実に切り身は脆さが増していきます。
もう小麦粉の衣が残っているかも分かりません。
でも「決して焦がしてはならぬ」です。
ヨンジョンさんが、求婚する王子たちにこれでもかと無理難題を押し付けるトゥーランドット姫に見えてきて、あの有名なメロディーが頭の中を流れます。
たぶん私の技量ではReproがなかったら、この料理は作れませんでした。(そもそも本当に出来ているのかも怪しいですが…)
遂に完成!

それでもなんとか3ターンをこなして、完成したのがこちら。
たまごの黄色が鮮やかで素敵ですが、なんだか当初目指した麻布十番グレイスのタラチヂミとはまったく違う料理になってしまったような…

う〜ん、グレイスの方がもっと衣が厚い感じで、焼色もきっちり付いてますね。
単に卵黄(もしくは全卵)を混ぜた濃いめのチヂミの生地をくぐらせて、もっと高温で焼いているのかなあ…
きっと同じジョン(もしくはチヂミ)と言っても、色々な価値観・焼き方があるのでしょう。
ただ食べてみると今回作った鱈のジョンも美味しいです。3回漬けすると、たまご感満載で、もう完全にチヂミとは別物になりますが、高級感もありマッコリにも合いそうです。
いずれにせよヨンジョンさんが言っていたとおり、ジョンは気持ちを込めて、手間のかかる料理です。それは想像以上の手間です。
時間と気持ちに余裕がある時に、愛する人のために丹精込めて作ってあげましょう。
鱈のジョンのつけダレ

ちなみに、グレイスのタラチヂミのつけダレは、しょうゆに少量の刻みねぎと炒りごま、それに辛口には青唐辛子が入ったものです。
ヨンジョンさんの動画も、しょうゆとごまと書いてあったので、鱈のジョンのつけダレはシンプルなしょうゆベースなんですね。
公開したReproレシピはこちらです。Reproユーザーの方はアプリから検索して使ってみてください。
鱈のジョンのお勧めポイント
最後に今回の経験から私がお勧めする作り方のポイントをまとめます。
(1)少しでも身崩れしにくいように、たらは厚く切る
(2)できるだけ衣は厚く付ける
(3)卵黄だけを使う
(4)できるだけ低温で加熱する
(4)はたまごが凝固する温度以上なら良いので100℃以下でも大丈夫ですし、3ターンもするのでたらの身にはいやでも火が入ります。むしろ低温の方がたらが柔らかくジューシーに仕上がるでしょう。(そもそも小麦粉に火が入るような温度ではないので、これで良いのかな?と思いつつも、粉っぽさはまったく感じませんでしたね)
それに90℃ぐらいにすれば素手で持ってもいくらか我慢できますよ…(苦笑)




