IH熱誘導(熱拡散)プレートってなに?

IH熱誘導(発熱・拡散)プレートってなに?

最近Amazonとかで、IH熱誘導プレート・発熱プレート・熱拡散プレートなど色々名前はあるんですが、つまりはIHコンロで使えない材質のフライパンや鍋、土鍋などを温められる、いわば「IHに反応するステンレスの円形一枚板」の製品がいくつも見受けられます。
形状・大きさもまちまちで、最初からハンドルが取り付けられているもの、取り外しができるものなどいろいろあり…
大抵は中国製とかの良く知らないメーカーの製品が多いんですが、中にはご自宅でエスプレッソ(イタリア的に正確に言えば「モカ」)を作るマキネッタの有名メーカー「ビアレッティ(BIALETTI)」純正のマキネッタ専用のインダクションプレートと言う製品もあって、なかなかにおしゃれです。

熱誘導プレートで温度管理できないか?

これがReproで使えて、温度管理できたらすごいなあ…と。
そもそもは以前のコラム記事「Reproでたこ焼き器の穴の温度を測ってみた」で、色々なたこ焼きプレートを探したのですが、

大抵が底面がこんな形状だったので、Reproの本体センサーに接触できず、使えませんでした。
でも、この熱誘導プレートがうまく機能するなら、Reproで温度管理できるたこ焼きプレートが格段に増えると思い…
この熱誘導プレートを鍋の下に敷けば、理屈としては「貼底の鍋」と同じ状態になるはずです。

CRISTEL L 20cm

こちらはヨーロッパのブランド物の高級鍋に、良く使われる「ステンレス多層貼底タイプ」。
一番下の2cm厚ぐらいの部分(薄く分かれ目が見えている部分)だけが、IHに反応して発熱する作りになっています。
ちなみに、この「CRISTEL(クリステル)L 20cm」、Amazonで見ると27,500円とお値段も素敵ですが、Reproに乗せた時の温度管理精度もかなり素晴らしい逸品です。
一方で、熱誘導プレートは、1,500円ぐらいから、高くても5,000円。うまくいけば、上に何を乗っけても、プレートのプロファイルさえ正しいなら、CRISTEL並の温度管理精度が「超破格値」で実現できるのでは?と期待が膨らみます。

まず、中国製の熱誘導プレートを2製品とBIALETTIインダクションプレートを買ってみた

ということで、まずは手始めに中国製と思われる(と言うかそもそもHPを探しても良くわからないのですが)2製品をAmazonで購入してプロファイルを作成してみました。

VGEBY IHヒーティングプレート24cm(5,005円)


Amazonにはストアもあり、なにか色々な製品を販売しているみたいですが…
そもそも社名の「VGEBY」(ぶいじぇばい?)の読み方すら分かりません。

OneV FT熱拡散プレート24cm(1,5049円)


こちらに至ってはどこのメーカーなのかすら、さらにさっぱり…
ただVGEBYよりかなり安いのに、プロファイル検証時の加熱特性は、こっちの方が遥かにバランスが良く優秀でした。

BIALETTIインダクションプレート13cm(3,540円)


ご自宅でエスプレッソ(モカ)を作るマキネッタの世界的メーカーBIALETTI(ビアレッティ)のマキネッタ専用インダクションプレートです。マキネッタ専用なので直径13cmですが、アルミ・ステンレス多層構造(クラッド)の製品なので、熱伝導率は中国製の2つより良いようです。

温度ムラをどれだけ解消できるのか?

さて、どちらの製品も、と言うかほとんどの熱誘導プレート製品は「熱拡散プレート」とも名乗っており、温度を均一化できると謳っています。なので、どれだけ温度ムラがあるのか?この2製品をサーモグラフィで確認してみました。

OneV FT熱拡散プレート24cm

OneV FT熱拡散プレート24cmのサーモグラフィ写真

Reproに乗っけって150℃をキープしてみると。
あれれ~、IHコイルの直上だけが真っ赤で、「熱拡散」には程遠いですねえ。

VGEBY IHヒーティングプレート24cm

VGEBY IHヒーティングプレート24cmのサーモグラフィ写真

こっちは、さらに温度ムラがひどく、中心部分がかなり高温になっていますねえ…
どちらも、少なくとも「熱拡散プレート」としては、あまり役に立ちそうもありません。

BIALETTIインダクションプレート13cm

BIALETTI インダクションプレート13cm

ご自宅でエスプレッソ(イタリアでの正確な名称は「モカ」)を作るマキネッタの有名メーカー「ビアレッティ(BIALETTI)」のインダクションプレートは、上の2つと異なり、「アルミ・ステンレス多層構造(クラッド)」のプレートです。ステンレス単層より熱伝導率が高い上に、直径12cmのIHコイルの直上にほんの少しだけ大きい13cmのプレートが載せられているので、サーモグラフィ的には、ほぼ温度ムラを捉えることはできません。

熱誘導プレートでできる温度管理は?

理屈で考えると、熱誘導プレートでできる温度管理は、

(1)フライパン表面温度の温度制御
熱誘導プレートの上にフライパンを置いて、熱誘導プレートの温度をReproで設定すれば、フライパンの表面温度は、設定温度より若干低めにはなるかもしれないけれど制御できるはず。

(2)外部センサーを使い鍋の水温を温度制御
こちらは、かなり期待が持てそうです。Reproの外部センサーは鍋内の実際の水温を測って温度制御しているので、うまくすればCRISTEL(クリステル)のような貼底タイプと同じように精緻に温度管理できるはずです。

※当然ながらプレートの上に乗せる鍋の大きさ・材質・水量は分からないので、本体センサーでの温度制御(つまり外部センサーを使わない)はまったく出来ません。(温度一定にしない沸騰アクションなら使えるかもしれませんが)ご注意を。

フライパンの表面温度実験

プロファイル検証で、出来の良かった「OneV FT熱拡散プレート」を使って実験してみます。乗せるフライパンは、熱伝導特性が良い「SCANPAN(スキャンパン)CTX24cm」。本当はIHに反応しないフライパンがあれば良いのですが、なにせReproの会社なのでIH非対応のフライパン・鍋がほぼなく…
多分、熱誘導プレートでIHコイルの磁力線はすべて消費され、フライパン自体の発熱はほぼないと信じて実験してみます。

こんな感じの実験環境で、プレートの温度と、フライパンの表面温度を計測しながら、

100℃・10分→150℃・10分→200℃・10分

に設定して加熱してみます。

これは、予想以上に厳しいですねえ…
まずはタイムラグ。プレートが設定温度に達してから、フライパンの表面温度が限界まで上がるのに約10分ぐらいかかってしまいます。
次に、予想外にプレートとフライパンの温度差が大きいこと。Reproの設定限界温度=200℃にプレートを加熱しても、フライパンの表面温度は160℃ぐらいまでしか上がりません。これだと料理をするにしても、かなり作れるものが限られてしまいますね。少なくとも「たこ焼きプレート」はムリなようです。

外部センサーで水温を温度制御する実験

こちらも、IH非対応の鍋を持っておらず、やむを得ず「ジオ・プロダクト両手鍋20cm(基準水量1.5L)」をプレートの上に置き、外部センサーをセットして、
40℃・5分→70℃・5分→95℃・5分
に設定して加熱してみました。

これまた予想以上に厳しい結果ですね。鍋の中の水を40℃に温めるためにプレートの温度は143℃に達してしまうため、水温が40℃に達したあとも鍋内の水温は上がり続け、10℃以上もオーバーシュートしてしまいます。オーバーシュート値は70℃=4.7℃、95℃=0.1℃と設定水温が高いほど減ってはいくものの、95℃に加熱する時には、プレートの温度は223.7℃に達してしまい、とても「エコではない感じ」になっています。

こちらは、「こうなるんじゃないか?」と当初想像していた「貼底タイプ」のCRISTEL(クリステル) L 20cmの、40℃・70℃・95℃に加熱した際のデータです。当然ながら温度誤差(特に40℃帯)は圧倒的に小さく、底面と水温の温度差がプレートより遥かに小さいので、オーバーシュート値も小さく抑えられています。
95℃に加熱する時でも、鍋底の温度はプレートの半分以下の103.7℃にとどまっています。
鍋底に発熱体がある」と言っても、きちんと溶着されたものと、単に板状のものを置いただけ、とではこんなに違うんですね。

こちらは、OneV FT&ジオ・プロダクト両手鍋20cmの、もろもろのパラメーターを調整して、各温度帯とも10分づつに延長して、再チャレンジしたものです。
それでも40℃帯のオーバーシュートが約半分に減ったぐらいで、温度管理の不正確さとタイムラグとプレートがやたら高温になってエコじゃないことは変わりありません。

IH熱誘導プレートの意味のある使い方

では、IH熱誘導(拡散)プレートは使い道がないのか、と言うと必ずしもそうとは言い切れません。結論から言えば「プレートを使わないとガスコンロでもIHコンロでも加熱できないものを加熱したい」時です。
パッと思いつくものは、あまりに直径が小さすぎるもの。
ガスコンロの五徳にも乗らないし、IHコンロのコイルの直径より小さくて加熱できない、そんなものを加熱したい時にはIH熱誘導プレートは便利です。

BIALETTIインダクションプレート&Staubラ・ココットDE GOHAN Sで炊飯(1合)

Staubの炊飯専用鍋「ラ・ココット DE GOHAN S」はめちゃくちゃかわいいサイズとフォルムです。ただ底面の直径が8.8cmしかなく、大抵のIHコンロでは加熱できません。Reproも含め、多くの卓上IHコンロのIHコイルの直径は12cmぐらいあるので、それより直径が小さい鍋・フライパンは加熱できないのです。
BIALETTIインダクションプレートは直径13cm。Staubラ・ココット DE GOHANのSサイズを乗せるのにぴったりです。
エスプレッソ(モカ)を抽出するマキネッタ専用ですが、これで炊飯(1合炊き)にチャレンジしてみます。
1合(150g)の米を研いで、洗米と水の総重量=360gで30分間浸漬したら、ふたをしてスタートボタンをON。すぐにOKボタンを長押しすると、ゆっくり加熱が始まり約10分で沸騰。さらにそのまま2分間沸騰させたら自動的に弱火になって8分間蒸し煮します。
そのまま10分間「蒸らし」て完成。

なんとかうまく炊けました。おしゃれな「おひとり様ライフ」にはお似合いの素敵な晩ごはんです。
Staubで炊飯(1合)プレート使用」というレシピ名で公開しておきました。

BIALETTIインダクションプレート&マキネッタでエスプレッソ(モカ)

BIALETTIインダクションプレートは、そもそもマキネッタでエスプレッソ(モカ)を淹れるための専用プレートですから、この使い方を外すわけにはいきません。マキネッタの一番小さい1カップ用の底面は8cm。ガスコンロ用のアダプター(五徳)も売っていますが、IHにインダクションプレートの方が、遥かにスタイリッシュなフォルムです。やっぱりこれが一番しっくりときますね。

【おまけ】マキネッタでエスプレッソ(モカ)をうまく淹れるコツ

Amazonのカスタマーレビューに「マキネッタで上手く淹れられない方のためのレシピ」という投稿が。


詳細は、この投稿をお読みいただければ良いのですが、マキネッタでエスプレッソ(モカ)をエスプレッソマシンで淹れた本当のエスプレッソに近づけるポイントは、

(1)1cupあたり水を30mlにする(本当は1cup用で60ml入りますが)
(2)弱火で4分以上かけて抽出する

ということ。(2)を実験してみました。
Repro&インダクションプレートで、

(A)沸騰レベル+1.0(500W)で淹れると抽出終了まで
2分50秒(60mlの場合)
2分46秒(30mlの場合)

(B)沸騰レベル+0.0(300W)で淹れると抽出終了まで
4分45秒(60mlの場合)
4分23秒(30mlの場合)

確かに(A)はサラッと薄くて、「ああ、やっぱりエスプレッソではなくモカなのね。」という感じなのに対し、(B)はかなり濃くてエスプレッソにとても近い感じです。(クレマ=表面の泡はできませんが)
イタリア人のように30mlに対しグラニュー糖6gを加えるのはちょっとしんどいですが、3g加えて、少し溶け残るぐらいにかき混ぜる(スプーンで2〜3回)と、とても飲みやすくなります。

そう言えば、AmazonのBIALETTIインダクションプレートのページのワット数表記に「320W」という不思議な表記がありましたが、あれはもしかしてマキネッタでエスプレッソを抽出する時の「最適ワット数」が書かれていたのかもしれません。
Amazonのカスタマーレビューすごいです。勉強になりました!

Reproユーザーの方がお使いの際は、プロファイル>その他>BIALETTI>BIALETTIインダクションプレート で「水温ターゲット」を本体に送信して、
沸騰レベル+0.0(もしくは+0.1)
で抽出してみてください。ReproではないIHコンロをお持ちの方は、火力を300Wもしくは320Wぐらいにしてお試しを。

話しは脱線しましたが、なにしろ今のところ、IH熱誘導プレートの意味のある使い方、この2つしか思いついていません。
他に有意義な使い方をご存知の方はぜひご教示ください!