ほうれん草にも旬がある ビタミンC含有量に顕著な差

緑色の野菜の代表格であるほうれん草は多くの人に愛されていますが、いつ食べるのが一番おいしいのでしょうか。スーパーや八百屋で1年中見かける野菜ですが、最もおいしく、栄養価が高い旬の時期が存在します。ビタミンC含有量にも顕著な差があり、旬の時期に食べることで、最大限の栄養を摂取することが可能です。

本記事では、ほうれん草がどのような野菜であるのか、その種類や特性を解説。さらに、ほうれん草が最も旬を迎える時期と栄養素についても詳しく説明します。

ほうれん草はどんな野菜?

ほうれん草は、その緑豊かな葉と栄養価の高さから「緑黄色野菜の王様」とも称されるほどの野菜です。ここでは、ほうれん草の種類や特性、そしてそれがどのように料理や栽培に影響を与えるのかについて詳しく解説します。

東洋種と西洋種の交雑種が主流

ほうれん草は主に「東洋種」と「西洋種」という二種類に大別できます。それぞれの種類には独自の特徴があり、用途や栽培環境によって選ばれます。そして、これらの良い特性を組み合わせた「一代雑種(交雑種)」が現在の主流となっています。

東洋種は日本をはじめとするアジア地域で古くから栽培されています。この種のほうれん草は寒さに強く、味が良いとされています。葉には深い切れ込みがあり、葉柄が長く、根本が赤いという特徴があります。
また、アクが少なく、歯ざわりが良いため、お浸しや和え物に適しています。

西洋種は、主にヨーロッパやアメリカで栽培されています。この種類は、抽苔(農作物に花が咲き、食用に適する時期を過ぎてしまう現象)しにくく、春から夏にかけても栽培が可能です。葉は肉厚で、収穫量が多いという特徴があります。形状は丸みを帯びており、葉柄が短く、根本の赤みが薄いです。
アクが強いため、バター炒めや炒め物に向いています。

一代雑種は、東洋種の味の良さと寒さに強い特性、西洋種の収穫量の多さと抽苔しにくい特性を併せ持っています。葉の形も東洋種と西洋種の中間的な特徴を持ち、剣葉系と丸葉系があります。剣葉系は葉の基部に切れ込みがあり、三角形の形をしています。
一方、丸葉系は葉に切れ込みがなく、広い楕円形で葉柄が大きいものが特徴です。

一代雑種は、東洋種が持つ寒さに強い特性と西洋種が持つ抽苔しにくい特性を併せ持つため、一年を通して安定して栽培が可能です。これは生産者にとっても、消費者にとっても大きなメリットとなります。

ちなみに、厳冬期に露地で寒さにさらしたほうれん草を「ちぢみほうれん草」と言います。この栽培法は特有の甘みが増すとされて最近人気になっています。

ほうれん草の旬はいつ?

ほうれん草は一年を通して楽しめる野菜ですが、旬の時期には、ビタミンCなどの栄養素が豊富に含まれています。また、価格も手頃で出荷量も多いため、この時期にほうれん草を積極的に食べることで、健康的な食生活を送ることができます。

ほうれん草の旬の時期

ほうれん草は寒さに強い野菜で、一般的には11月から3月までの冬季が旬とされています。この時期のほうれん草は出荷量が多く、価格も手頃です。また、冬の寒さに耐えるために甘みを蓄えているため、風味が良くなっています。

冬のほうれん草はビタミンCが豊富です。このビタミンCの多さは、ほうれん草が低温で育つことによる影響とされています。
夏季にもほうれん草は栽培されていますが、その場合は高冷地やハウス栽培が主流です。夏のほうれん草は冬のものに比べて甘みが少なく、苦みやえぐみが感じられることもあります。

旬のほうれん草の栄養価

前述のとおり、ほうれん草はビタミンCの含有量が季節によって大きく変わりますが、それだけではありません。ビタミンK、ビタミンA、鉄分、カリウムといった他の重要な栄養素も豊富に含まれています。

ここでは、それぞれの栄養成分がどれだけ含まれているのか、その成分が私たちの健康にどのように影響を与えるのかについて詳しく解説します。

ビタミンCの量が夏と冬で顕著に差

ほうれん草のビタミンC含有量は、季節によって大きな違いがあります。特に、夏採りと冬採りのほうれん草でこの差は顕著です。日本食品標準成分表(八訂)増補2023年によれば、夏採りのほうれん草に含まれるビタミンCは約20mg、一方で冬採りのほうれん草では約60mgと、3倍の量が含まれています(可食部100gあたりの数値、以下同)。

風邪やインフルエンザが流行る冬季には、ビタミンCの抗酸化作用が免疫力を高める助けとなります。

その他の栄養成分

ほうれん草はビタミンCだけでなく、他にも多くの栄養成分を豊富に含んでいます。

ビタミンKは270μg含まれています。ビタミンKは、血液の凝固に関与するだけでなく、骨の健康にも寄与します。特に、カルシウムの骨への取り込みを助ける働きがあります。

レチノールやβ-カロテンなど、ビタミンAとして体の中で働く物質の総量を示すレチノール活性当量が350μgとビタミンAも豊富です。ビタミンAは視覚や皮膚の健康、免疫機能に重要な役割を果たします。

鉄分は2.0mg含まれており、これは特に女性や成長期の子供にとって重要なミネラルです。
女性は月経により定期的に血液を失うため、鉄分の必要量が多くなります。また、妊娠中や授乳期間の女性も、赤ちゃんの成長に必要な鉄分を供給するために、より多くの鉄を必要とします。成長期の子供は、体が成長するために多くの鉄分を必要とします。特に脳の発達に鉄は重要で、鉄分不足は学習能力や注意力に影響を与える可能性があります。

カリウムは690mgと非常に高い含有量です。カリウムは、血圧の調整や筋肉の働きに関与します。

ビタミンB1、B2、B6もそれぞれ0.11mg、0.20mg、0.14mgと含まれています。これらのビタミンは、エネルギーの代謝や神経機能に関与します。

妊娠初期の女性にとって非常に重要な葉酸が210μg含まれています。葉酸が不足すると、神経管欠損症と呼ばれる重大な先天性障害(無脳症、二分脊椎など)が胎児に起こるリスクが高まります。

食物繊維も2.8gと多く、便通を良くする効果があります。また、食物繊維は腸内環境を整える作用もあります。

注意したい成分としてシュウ酸があります。これはほうれん草に多く含まれる成分であり、アクとして出てきます。
サラダ用として売られているものは、品種改良でシュウ酸の含有量を低く抑えているものです。結石の原因になるため、食べる際は基本的に生食はせず、茹でてアク抜きをしましょう。

旬のほうれん草の選び方

ここでは、ほうれん草を選ぶ際のポイントを詳しく解説します。鮮やかな緑色の葉、葉の大きさと厚み、茎の太さ、葉先の状態、根元の色など、多角的にほうれん草を評価する方法を学びましょう。

見た目で判断するポイント

ほうれん草の葉が鮮やかな緑であることは、新鮮度と栄養価が高い証拠です。色が濃いほど、ビタミンやミネラルが豊富に含まれています。薄い緑色や黄色っぽい葉は鮮度が落ちている可能性が高いです。

葉が大きく、厚みがあるものは成長が順調で栄養価が高いとされています。ただし、あまりにも大きすぎると、食感が硬くなる場合があります。

茎は細め、株は小さくて柔らかいものを選びましょう。茎が太いものは成長しすぎており、食感が硬く、また栄養価が低下している可能性があります。

根元が鮮やかな赤色であるものは新鮮な証拠です。

保存方法と賞味期限

品質の良いほうれん草を手に入れたら、次はその鮮度をいかに長持ちさせるかが大切です。ここでは、ほうれん草の保存方法とその賞味期限について詳しく解説します。

冷蔵庫での保存

ほうれん草は乾燥に弱い野菜です。そのため、保存する際には湿らせたキッチンペーパーで包み、保存用袋またはポリ袋に入れて冷蔵庫の野菜室で保存するをおすすめします。

葉を上にした状態で立てて保存すると、葉が傷むのを防げます。保存期間は1週間ほどです。

冷凍保存の方法

冷凍保存する場合は、、その前に傷んでいる葉を取り除き、きれいに洗ってから熱湯でかためにゆでましょう。ゆでてから冷凍すると、栄養素の損失を軽減できるためです。

ゆでたら冷水にさらして水気をしっかり絞り、食べやすい大きさにカットします。小分けにしてラップで包み、保存袋に入れて冷凍室で保存します。
冷凍では約1カ月保存が可能です。

ほうれん草を使った郷土料理

最後に、ほうれん草が使われている郷土料理を紹介します。今回は、島根県の「黒田せりとほうれんそうのおひたし」と佐賀県の「およごし」に焦点を当て、それぞれの地域性や歴史、そして料理の特徴について詳しく解説します。

黒田せりとほうれんそうのおひたし

出典:農林水産省「うちの郷土料理

島根県松江市の郷土料理「黒田せりとほうれんそうのおひたし」は、地域の特産野菜である黒田せりとほうれん草を使ったシンプルながらも風味豊かな一品です。黒田せりは、江戸時代から松江市の黒田町一帯で栽培されている歴史ある野菜で、旧地名の黒田町に由来します。

この料理は、11月から3月初めまでの収穫期に特に多く食べられ、地元では「正月セリ」とも呼ばれています。年末から正月にかけては出荷がピークを迎え、冬の健康野菜としても重宝されています。せりのクセがあるため、ほうれん草の割合を多くする(ほうれん草7:せり3の割合)とちょうど良いバランスになります。

およごし

出典:農林水産省「うちの郷土料理

佐賀県の郷土料理「およごし」は、ほうれん草を主成分としたシンプルながらも栄養豊富な料理です。この料理は、ほうれん草を煮た後、醤油や砂糖で味付けをして、最後にごまを散らすという手順で作られます。

「およごし」の名前の由来は、ほうれん草を「およぐ」、つまり煮ることから来ています。特に寒い季節に食べられることが多く、新年やお祝い事の席でもよく見られます。

この料理は佐賀県内の各地で愛されており、地域によっては少しアレンジを加えたバージョンも存在します。一部の地域では、ほうれん草の代わりに他の葉野菜や、地元で取れる海藻を使用することもあります。