サワラの旬は春?冬? どちらも正解な理由とは

春を告げる魚とも言われるサワラ。しかし、旬であるとされる季節は春だけではありません。春に旬を迎える地域もあれば、冬にそのおいしさを楽しむ地域も。

本記事では、その多面的な魅力について解説します。春の旬と冬の旬、栄養面、さらには選び方や保存方法に至るまで、サワラについての基礎から応用まで幅広くお伝えします。旬な季節を知ることで、その時期だからこそ味わえるサワラの極みを存分に堪能してください。

サワラとは

ここでは、サワラの名前の由来や歴史に始まり、その特徴と生態について詳しく解説していきます。

名前の由来と歴史

サワラは春に外海から瀬戸内海に入ることから、春漁の魚とされ、「鰆」と書いて「サワラ」と呼ばれています。
ただし語源は「サ」は狭いを意味し、「ハラ」は腹を指します。つまり、腹が狭くスマートな体形をしていることからこの名前がついたとされています。貝原益軒の『大和草本』にも、サワラの名前についての記述があり、腹が狭いことから「狭腹(さわら)」と呼ばれたと説明されています。

また、サワラは出世魚であり、その成長に応じて名前が変わります。具体的には、サワラが成長する過程で「サゴチ(~50cm)」→「ヤナギ(~70cm)」→「サワラ(70cm以上)」と呼び名が変わるのです。

特徴と生態

サワラはサバなどと同じ青魚です。口に鋭い歯が並んでいるのが特徴で、釣り針を外す際には注意が必要です。
肉質はやわらかで身割れしやすい性質があります。特に尾に近い部分が美味とされています。
北海道南部からオーストラリアにかけて分布しています。

サワラの旬の時期

サワラの旬の時期は地域によって大きく異なります。関西では春が、関東では冬が旬とされています。ここでは、それぞれの地域でサワラがなぜ旬を迎えるのか、その理由と特性について詳しく解説します。

春のサワラ:関西での旬

春が訪れると、関西地方でサワラが旬を迎えます。春になるとサワラは産卵のために瀬戸内海へと移動します。このため、関西地方で多く漁獲されるのです

春にとれるサワラは、身が柔らかく淡白な味わいが特徴です。
また、関西地方では身だけでなく、真子(卵巣)や白子(精巣)も一緒に楽しむ文化があります。特に春に捕れるサワラの真子は、煮つけやカラスミなどの料理で楽しまれています。

冬のサワラ:関東での旬

関東地方では、冬季に「寒鰆(かんさわら)」が旬を迎えます。この時期のサワラは、産卵を控えているために雑食性になり、豊富な餌を摂取します。その結果、春とは違い脂がしっかりと乗っており、口当たりが非常に濃厚です。

この時期に特におすすめなのは、刺身です。足が早いため鮮度の高い状態で入手するのは難しいですが、脂がのったこの季節の刺身は格別です。

サワラの栄養と効果

サワラはおいしさだけでなく、栄養面でも注目される食材です。特にDHA、EPA、ビタミンDやといった健康に有益な成分が豊富に含まれています。ここでは、サワラに含まれる主要な栄養成分について詳しく解説します。

DHAとEPAの効果

サワラに含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)とEPA(イコサペンタエン酸)が豊富に含まれています。サワラの可食部100g当たりにDHAが約1,100mg、EPAが約340mg含まれています。DHAとEPAは心血管系の健康に非常に有益です。これらの脂肪酸は、動脈硬化を防ぐ作用があり、心臓病や脳卒中のリスクを低減することが知られています。

DHAは特に脳機能に対して良い影響があります。記憶力の向上、集中力の増加、そして認知症の予防にも寄与するとされています。

EPAには抗炎症作用があり、関節炎やその他の炎症性疾患の症状を和らげることができます。

ビタミンDと骨の健康

サワラにはビタミンDも豊富に含まれています。ビタミンDは、通常、太陽の紫外線を浴びることで皮膚が生成するビタミンですが、食品からも摂取することができます。特に、サワラに含まれるビタミンDは7.0μgと、その他の魚類に比べても高いレベルです。

ビタミンDは、カルシウムとリンの吸収を助ける役割を果たします。これらのミネラルは、骨や歯の形成に不可欠であり、ビタミンDが不足すると、骨がもろくなり、骨折しやすくなる可能性があります。
高齢者は特にビタミンDが不足しやすく、骨粗しょう症のリスクが高まります。サワラを定期的に食べることで、ビタミンDを摂取し、骨の健康を維持することができます。

サワラの選び方と保存方法

サワラにはに春と冬に旬があることを解説してきました。しかし、そのおいしさを味わうためには、新鮮なサワラを選び、適切に保存することが非常に重要です。ここでは、サワラの選び方から保存方法を解説します。

新鮮なサワラの選び方

まるごと1尾のサワラを選ぶ場合、おなかが丸くふっくらとしるものが脂がのっています。
また、 サワラの体は新鮮なものほど銀色に光っています。「斑紋」と呼ばれる模様がはっきりとしているものも鮮度の良い証拠です。
目の部分もチェックしておきましょう。目が濁っていると、鮮度が落ちている可能性が高いです。

切り身になっているサワラを場合は透明感のあるものを選びましょう。新鮮であるほど身は透き通っています。
皮はしっかりと張っていて、模様が鮮明なものが新鮮です。

サワラの保存方法

冷蔵保存の方法と期間

  1. サワラの表面についている水気は、臭みの原因になる可能性があります。キッチンペーパーでしっかりと拭き取りましょう。
  2. 空気に触れると雑菌が繁殖する可能性があります。ラップでしっかりと包んで、空気に触れないようにします。
  3. さらにジッパー付きの保存袋に入れ、チルド室で保存します。

冷蔵保存の場合、内臓付きや刺身は1日、切り身の場合は3日以内、醤油や味噌で下味をつけている場合は5日以内を目安に消費しましょう。

冷凍保存の方法と期間

  1. 冷蔵保存と同様に、水気をしっかりと拭き取ります。
  2. ラップでしっかりと包みます。
  3. ジッパー付きの保存袋に入れます。

冷凍保存の場合、切り身は2〜3週間程度を目安に食べ切りましょう。

サワラを使った郷土料理

最後に、地域性豊かなサワラの料理に焦点を当て、その調理法や食文化の背景について詳しく解説します。

まつりずし(ばらずし)

出典:農林水産省「うちの郷土料理

岡山県を代表する郷土料理として「まつりずし」があります。この料理は、「岡山ばらずし」や「備前ばら寿司」とも呼ばれ、特に岡山地方でお祭りや祝い事、来客の接待などに作られる一品です。江戸時代に岡山藩主であった池田光正公が出した「庶民は一汁一菜にせよ」という節約令の対策として、庶民が魚や野菜をすしの具に使い始めました。

この料理は季節によって使われる具材が異なります。春にはサワラ、フキ、タケノコが主役となり、秋にはマツタケなどが加わることもあります。地域や家庭によっても、すし飯の炊き方や合わせ酢の調合、具の煮方が異なるため、多様なバリエーションが存在します。

また、まつりずしには「ぬくずし」という食べ方もあります。これは、まつりずしを蒸して温めたもので、「ぬくい」は岡山の方言で「温かい」を意味します。

押し抜きずし

香川県で愛される郷土料理「押し抜きずし」は、サワラの切り身を酢で漬け込み、その後、すし飯とともに特殊な型で押し出して作ります。
具材には他にも、ふき、しいたけ、卵、そら豆、凍豆腐などが使われます。

サワラの切り身は、塩を振って30分程度置き、その後酢に漬けて1時間程度置きます。この工程でサワラの風味が引き出され、保存性も向上します。