「加熱ムラ」の本当の姿をビジュアル化してみる

料理の世界で、よく「IHは加熱ムラがあるからなあ…」とか話題に上る「加熱ムラ」とか「温度ムラ」と呼ばれるもの。
話題にはなっても実際に、どんなふうに「ムラ」になっているか、目で見る機会はあまりありません。今回は、そんな「加熱ムラ」をサーモグラフィーを使って動画でビジュアル化して、その正体に迫ってみます。

実験に使うのは2種類の素材の違うフライパン

まず一つめは、人気のVERMICULAR(バーミキュラ)のフライパン24cm深型。鋳鉄ホーロー製なので、長持ちして蓄熱性も良さそうですが、熱伝導率は比較的低い(=熱の伝わる速度が遅い)製品です。

二つめは、あの洋食の名店「たいめいけん」でもご愛用と言う中尾アルミ製のキングフロンフライパン24cmです。こちらはステンレスとアルミを何層にもラミネートした材質を使っている、いわゆる「ステンレス・アルミ多層構造(クラッド)」と呼ばれるものです。IHにも使えるステンレスと熱伝導率の高いアルミの良いところ取りしたもので、熱伝導率は比較的高い(=熱の伝わる速度が速い)製品です。

この2つを使って、まずはReproのレガシーモードでIHで連続加熱した場合の加熱ムラを見ていきます。
Reproの「レガシーモード」は、従来のIHコンロと同じように、一定火力(つまりは弱火・中火・強火みたいに)で加熱することができます。Reproの最大火力は1400Wなので、今回は「最大火力=1400W=最強火」で一気に連続加熱してみます。

鋳鉄ホーロー製フライパンをIHで連続加熱すると

動画でごらんの通り、バーミキュラのフライパンを最大火力で加熱すると、あっという間に、絵に描いたようなドーナツ状の高温部分(P2)と真ん中(P1)や外側には温度の低い部分ができます。当然ながらドーナツ状の部分は、下に加熱するための磁力を発生させる「IHコイル(インダクション・コイル)」が入っている場所です。
熱伝導率が低く、熱が広がる速度が遅いので、IHコンロの最大火力で連続加熱すると、低温部分と高温部分に、なんと「約100℃もの加熱ムラ」が生じてしまいます。

ステンレス・アルミ多層構造(クラッド)フライパンをIHで連続加熱すると

中尾アルミのキングフロンフライパンを最大火力で加熱すると、IHコイル上にドーナツ型の「加熱ムラ」が生じるのですが、ラミネートしたアルミの熱伝導率が高いため、すぐに熱が広がり、鋳鉄ホーローより速く、均質な状態に近づきます。
高温部分と低温部分の温度差は最大で15℃、最終的には5℃ぐらいと、鋳鉄ホーロー製のものより「加熱ムラ」は極めて小さくなっています。

「加熱ムラ」を減らす方法は?

ところで「加熱ムラを減らす方法」は、素材の問題以外で言うと大きく2つしかありません。

(1)ものすごくゆっくりと小出力(=超弱火)で加熱して、IHコイル上の温度が上がるスピードと、フライパン全体に熱が伝わっていくスピードを近づける。

(2)目標温度よりオーバーシュートさせてから、火をいったん止める、もしくは弱火にして熱がフライパン全体に広がるのを待つ。

(1)は、バーミキュラのような鋳鉄素材だと、目標温度に到達するまでに10〜20分とかかかってしまい、あまりに待ちくたびれてしまいます。
ですから(2)の方法が現実的なのですが、もし100℃も「加熱ムラ」があったら、それをうまいこと冷まして、熱がフライパン全体に行き渡り、今度はその状態を維持しながら食材を焼くという「超絶技巧な火加減」を会得するまでに、少なくとも数年以上の修行が必要そうです。
ということで、Reproの登場です。

鋳鉄ホーロー製フライパンをReproで150℃に加熱すると

Reproの「シングルステップ モード」で、目標温度=150℃に設定して、まずはバーミキュラのフライパンを加熱してみました。
ちなみにReproの表面温度ターゲット(=炒めもの)では、(2)の方法=「わざとオーバーシュートさせてから、熱が行き渡るように火を止めて、全体が均一になったタイミングで目標温度を維持する」を採用しています。ちなみに火加減は人間でなくReproが考えますが…

ごらんの通り、いったん高温部分(P2)は200℃超えと、派手にオーバーシュートしますが、その後は自動的に火を止めて、温度が下がるとともにフライパン全体に広がるのを待って、次第に150℃に向けて収束していきます。
最終的な「加熱ムラ」は約11℃と、連続加熱の場合の約1/10に小さくなっています。
今度はステンレス・アルミ多層構造(クラッド)のフライパンで同じことをやってみます。

ステンレス・アルミ多層構造(クラッド)フライパンをReproで150℃に加熱すると

すばらしい!(自画自賛)なんと最終的な高温部分(P2)と、真ん中の低温部分(P1)の「加熱ムラ」は約1℃。ほとんど温度差を相殺しています。
まあ、これはReproの性能ももちろんですが、フライパンの熱伝導率のバランスが素晴らしく良いことによって実現している側面もかなりありますが…
なんて言っていると、

「150℃に設定したのに、サーモグラフィーの温度はP1=158℃、P2=159℃と8〜9℃も目標温度より高いじゃないか!」

なんて、鋭い読者さんからご指摘がありそうな…
ちなみに、サーモグラフィーは、あくまで「輻射温度計」です。測定する対象が完璧な「黒体」でないと、どうしても誤差が生じてしまいます。

極めて正確にフライパンの表面温度(絶対値としての)を測るためには、この写真のような「接地タイプ」の表面温度計が必要です。ちなみに結構いいお値段がしますが。
また当然「ロガー」も必要です。それはさらにいいお値段がします…
ちなみにこの表面温度計で、キングフロンの中心部分を測定した結果は、ほぼ150℃になっていました。

IHとガスの「加熱ムラ」を比較

最初の話に戻りますが、「IHは加熱ムラがあるからなあ…」という説はどれくらい正しいのでしょうか?家庭用の都市ガスのコンロで検証してみました。

まずはバーミキュラのフライパンです。
う~ん、「ドーナツ状」が「お団子状」になっているというだけで、中心部分が低いのは変わりありませんねえ。
最終的なP1とP2の温度差も98℃ですし…
次は、キングフロンで試してみましょう。

これも最終的なP1・P2の温度差は18℃。IHとあまり大差ない感じになっています。
もちろんガスコンロの火口の直径や、めちゃくちゃな強火でフライパン底面全体を炎が覆っているような使い方をすれば別かもしれませんが、あまりワイルドな火加減だとデリケートな料理は難しいですしね…

具材が入った時の「加熱ムラ」の検証

今回は単純に「フライパンのみ」での「加熱ムラ」をビジュアル化してみたわけですが、これに具材が入れば、いや、油を敷くだけでも加熱ムラの状態は変わります。
油は比熱が金属より低いだけでなく、水でも油でも溶けた脂肪でも、「流体」になってしまえば対流による熱の拡散が大きくなり、温度の偏りを小さくしてくれるはずです。
いつかの機会に、今度は具材を入れたフライパンの「加熱ムラ」についてもビジュアル化検証をしてみたいと思います。

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