そもそものきっかけは前回のコラムで「にらチヂミ」を取り上げたので、余った「にら」をどうしようか?と考えたからなのですが、なぜ人は、これほどまでに「ニラ玉」を愛するのでしょう。
特に2018年に閉店した八丁堀の町中華「中華シブヤのニラ玉」を…
それは後世に伝えるべき遺産だったのか?
あいにく私は中華シブヤの「ニラ玉」をいただいた経験はないのですが、よほど人々に愛されていたのでしょう。
まずは原作・ドラマとも大人気の「孤独のグルメ」。
シーズン7の最終回で中華シブヤのニラ玉を取り上げています。テレビ東京の孤独のグルメ公式サイトを見ると、放送日は2018年6月29日。同店の閉店は2018年9月なので、わずか3ヶ月後に閉店するお店をあえて取り上げたということなのでしょうか?

さらにエスビーさんは、閉店から2年後の2020年に中華シブヤが監修した「幻の味 町中華 ニラ玉の素」が発売しています。
当時のパッケージには「今はない行列店」と書かれていますが、そもそもすでに閉店したお店の味を再現した「◯◯の素」って商品を発売することが尋常じゃないですよ。
今 繁盛している店の名前を借りて、その人気にあやかろうという下心丸出しの商品はたくさんありますが、2年近く前に閉店した店の人気メニューを再現しようとは…
エスビーさんは、引退した中華シブヤのご夫婦にインタビューまでして、作り方のポイントを説明しています。
孤独のグルメにせよ、エスビーさんにせよ、
「中華シブヤのニラ玉は後世に伝えるべき遺産である」
との明確な意思を感じます。
もう「世界町中華遺産」とも言えるユネスコ的な使命感に駆られているかのよう。
人々がニラ玉を愛する理由とは…

この「韭菜炒蛋(ジュウツァイチャオダン)」という中国の一般的な家庭料理が伝わった一品、たいていの町中華のメニューに存在するのですが、私は長い人生の中でお店でニラ玉を注文したことが一度もありません。
そこにはチャーシューメンあり、餃子あり、チャーハンあり、果てはハムエッグ定食まである、あの膨大なメニューを書き連ねた紙が並ぶ昭和な町中華で、なぜあえて「ニラ玉」を選ぶのか?
孤独のグルメの中でも、松重豊さん、もとい井之頭五郎が、後から入ってきた客が揃いも揃って「ニラ玉」を注文するのに驚いて、
「なに?なんでみんなニラ玉?だってニラ玉だよ…」
と心の中で呟やくシーン、「だってニラ玉だよ…」というセリフが象徴的です。そう、ニラ玉が嫌いなわけではないけれど、数あるメニューの中からあえて人々がニラ玉を選ぶ不可解さ。
そもそもニラ玉って、おうちで晩ごはんのおかずに「もう一品ほしいな」って時に作る「代打」的なイメージがあるんですよね。

でもたいていの町中華にはニラ玉が存在するわけで、一定数の客がニラ玉を注文していることは間違いありません。
ということで、今回は「普通のニラ玉」と「中華シブヤのニラ玉」を両方とも作って、人々を惹きつけてやまない「ニラ玉」の魅力に迫ります。
あっ、ちなみに前回のコラムでは「にら」と表記し、今回は「ニラ」とカタカナで表記しているのに他意はありません。どちらも間違いではありません。食材としてのにらは「にら」でスーパーやお店ではよく「ニラ」とカタカナで表記される慣習に従ったまでで、町中華のメニューとしては「にら玉」より「ニラ玉」の方がしっくりくるかなってだけです。(笑)
それから先ほどのエスビーさんのインタビューで、中華シブヤのご主人が、「とってもおいしいです。100%再現できていますね。」と証言しているので、中華シブヤのニラ玉の方は、エスビーさんの「町中華 肉ニラ玉の素」を使います。
基本のニラ玉のレシピ
まずは基本的なニラ玉を作ってみます。こちらの具材はにらとたまごだけ。とてもシンプルな「にらとたまごの炒め」です。
基本のニラ玉の材料・分量

【ニラ炒め用】
- にら⋯1/2束(50g)
- ごま油(にら炒め用)⋯小さじ2(10ml)
- 濃口しょうゆ⋯小さじ1(5ml)
【ニラ玉炒め用】
- たまご⋯2個(100g)
- 牛乳⋯大さじ1(15ml)
- 塩⋯少々(0.3g)
- 白こしょう⋯少々
- ごま油⋯小さじ2(10ml)
味付けはにらを炒める時に使う濃口しょうゆと、たまごに混ぜる少量の塩のみです。また、たまごを半熟めに仕上げるために卵液に牛乳を少量足しています。
にらをカットする

にらを3cm幅ぐらいにカットして、根元の固い部分と先の柔らかい部分を分けておきます。
卵液を準備する

ボウルにたまご、牛乳、塩、こしょうを入れて軽く卵白を切るように混ぜ合わます。
140℃でニラを炒める

フライパンの表面温度=140℃に加熱し、ごま油小さじ2を入れて、にらの固い部分から炒め始めます。

先の部分も入れ、しょうゆをかけ回します。
卵液に戻す

全体的にしんなりしたら、卵液の入ったボウルににらを入れて軽く混ぜます。その間にフライパンを軽くきれいにして、表面温度=170℃に加熱しておきます。
170℃で半熟状まで炒める

170℃になったら卵液を一気にフライパンに入れます。卵液の端の方が膨らんできたらへらで端から内側に入れるように手早くかき混ぜます。
半熟状になったら火を止めます。火の入り過ぎに注意してください。
基本のニラ玉完成

「基本のニラ玉」完成です。
しょうゆと塩だけのシンプルな味付けですが、塩加減もちょうど良く素朴に美味しいです。
このレシピはReproレシピとして公開しておきます。Reproユーザーはアプリで検索して作ってみてください。
次は「中華シブヤ」のニラ玉を作ってみましょう。
中華シブヤのニラ玉のレシピ
基本的に、先ほどご紹介した中華シブヤのご夫婦へのインタビュー時の作り方をReproで再現します。ただし少し分量などを変更しました。
中華シブヤの肉ニラ玉の材料・分量(現在版)
- にら⋯2束(200g)
- 豚バラ肉スライス⋯200g
- たまご⋯3個
- サラダ油⋯大さじ2(30ml)
町中華 肉ニラ玉の素の商品が変わっています
実はエスビーさんの「町中華 ニラ玉の素」は発売当初と現在の製品が異なっているようです。(味付けは基本的に変わらないのでしょうが)
製品名も、
発売当初:町中華 ニラ玉の素
現 在:町中華 肉ニラ玉の素
と変わっています。内容量=64gは変わっていないのですが、発売当初のニラ玉の素は、中味が32gづつの2人前×2包になっているのに対し、現在は3〜4人前の表記で64g×1包になっています。
私などは「2人前づつに個装されている方が便利なのに…」と思ってしまいますが、お子様も含め家族の晩ごはんのために作る、という場合にはきっとこのぐらいの分量がないと不便なのでしょう。
中華シブヤの肉ニラ玉の材料・分量(初期版)
なので中華シブヤのご夫婦のインタビューでの分量は、ニラ玉の素1包(32g)に対し、
- にら⋯1束(100g)
- 豚バラ肉スライス⋯100g
- たまご⋯2個
- サラダ油(あればラード)⋯大さじ2(30ml)
となっています。現在版では他の材料が倍量になっているのにたまごだけが、2個→3個なのは気になりますが…
作り方も微妙に違う
そして肉ニラ玉の素のパッケージに書いてある手順もインタビューと微妙に異なります。
【中華シブヤの奥さまの作り方】
豚バラ肉を炒める→にらの根元を炒める→葉先も炒める→いったん火を止める→
ニラ玉の素を入れる→再度火を付けて混ぜ合わせる→皿に盛り付ける→
フライパンをきれいにする→再度火を入れて薄焼きたまごを作る→肉にらの上に盛り付ける

【肉ニラ玉の素のパッケージ】
たまごを炒める→皿に取る→具材を炒める→火を止めて肉ニラ玉の素を入れて絡める→
たまごを戻して再加熱→炒め合わせて完成
う〜ん、確かに肉ニラ玉の素レシピで作ると「フライパンをきれいにする」という1工程が省けるのですが、肉にらの上に薄焼きたまごという、ニラ玉界の「たんぽぽオムライス」のような造形が再現できません。
それに現在版「肉ニラ玉の素」の分量だと最低でも直径26cmぐらいのフライパンが最適に思えますが、あいにく今、家にあるフライパンのサイズは最大24cmです。
ということで、ちょっともったいないのですが、現在版の肉ニラ玉の素を1/2包=32gだけ使い、初期型の分量と中華シブヤの奥さまの手順で作っていきます。
また卵に火を入れる時の表面温度は140℃にします。理由はインタビューでご主人が「にらに火を入れすぎない」とおっしゃっているのと、基本のニラ玉のようにたまごに牛乳を加えていないので誰でも焦らずにゆっくりと半熟薄焼きたまごが作れるようにするためです。
「まだるっこい」と感じる猛者は表面温度=170〜180℃ぐらいにして作ってみてください。
それではさっそく作っていきます。
肉ニラ玉の素を半分の32gに

まずは肉ニラ玉の素を半分の32gにします。もったいないけど明日またニラ玉を作れば良いか…
にらは3cm幅 根元は1cm

にらは根元は1cm、葉先は3cm幅にカットします。
豚バラ肉も3cm幅にカット

豚バラ肉も3cm幅にカット
たまごは白身が少し残っているぐらい

たまごは白身が少し残っているぐらいに軽くといておきます。
140℃で豚バラ肉を炒める

140℃になったらサラダ油(ラード)大さじ1を入れて、豚バラ肉を炒めます。
にらを炒める

豚バラ肉に火が通る直前に、にらの根元を投入して炒めます。

さらに根元以外の部分を投入して炒めます。
肉ニラ玉の素を投入

にらの色が濃くなってきたら火を止めて、肉ニラ玉の素を入れます。

改めて加熱しながら調味料と混ぜ合わせます。
肉にらを皿に盛り付ける

混ぜ合わさったら火を止め皿に盛り付けます。
薄焼きたまごを作る

肉にらを皿に移したら、フライパンをサッと洗い改めて140℃に加熱します。140℃に達したらサラダ油(ラード)大さじ1をひき、卵液を注ぎます。
菜箸でゆっくり「のの字」を書くようにたまごをかき混ぜます。詳細は先ほどのエスビーのページに動画があるのでそちらを。
そして半熟状になったら火を止め、フライパンから滑らせるように肉にらの上に置いて完成です。
中華シブヤの肉ニラ玉完成

試食してみると基本のニラ玉より味も濃く、オイスターソースを始め化調なうまみも効いていて「強烈なパンチ」があります。
まさに「町中華の肉ニラ玉」という感じ。基本のニラ玉が普通の牛丼だとすれば、こちらはアキバで初めて食べた「スタミナ丼」のようなパンチ感です。ごはんが無限に進む美味しさです。
でもなんか、この分量だとたまごが若干多い気もして…
適量はにら1束に対してたまご=1.5個なんですかね。
そうだとするとパッケージの分量がすべて倍量でたまごだけ2個→3個なのは分量調整をしてあるのかも。お店ならともかく一般家庭でたまご1.5個とかってレシピとして使いにくいですもんね。
こちらもReproレシピとして公開しました。中途半端に肉ニラ玉の素を残すのももったいないので分量についてはのパッケージ裏面にある通りにしています。この分量で作る時は、直径26cm以上のフライパンをお勧めします。
Reproユーザーの方はこちらをアプリで検索してみてください。
ニラ玉は帰ってきた人の料理

ここまで普通のニラ玉と中華シブヤのニラ玉を作ってみたけれど、多くの人がニラ玉を愛する理由はやっぱり今ひとつはっきりしません。そこで最後の手段、チャッピー(Chat GPT)に聞いてみました。そうしたら…
<チャッピー>
ニラ玉は中華料理じゃなくて「中華屋が作る家庭メシ」。だから「うまいから頼む」じゃなく、「今日はこれでいい、これがいい」という心理に刺さる。
さらにニラ玉は技巧料理ではない(うまい下手に差が出づらい)から、余計に店主の性格が出る。常連は味じゃなくて「店主の癖」を食べに来ている。ニラ玉は初心者向けでも代表作でもなく「帰ってきた人向け」の料理なんだよ。
ありゃ〜プログラムのソースコードとか簡単に間違えるくせに、こいつって、こういう時だけは妙に説得力あるなあ…
でも中華シブヤのニラ玉はめちゃくちゃパンチある感じだったぜ?全然ほっとする味じゃないけど?
<チャッピー>
中華シブヤは、ニラ玉を副菜という立場から主菜に引き上げた画期的な店。普通のニラ玉の優しさはゼロだけど白米ブーストに全振りした濃厚な味付け。
昭和から平成初期の八丁堀周辺は、倉庫・商社・現場系・長時間労働…
この環境で求められるのは即効性、満腹感、脳に来るうまさ。
中華シブヤのニラ玉を一言で評するなら「うまい料理」ではなく「効く料理」です。
…だって。
こいつ一度も行ったことないのに、よくここまで語れるなあ。
でも意外に真理を突いているのかも…
ニラ玉は作り方によって「ほっと安心する料理」にも「インパクトのある料理」にも変貌できるポテンシャルを持っていることは今回の実験で分かりました。
一日の仕事を終え、疲れ果てて帰路につく時、地元にポツンとあるなじみの中華屋で、まるで手作りの家庭料理のように優しく包んでくれるニラ玉。
ハードワーク途中の速攻ランチに、満腹感とうまみが脳天に効くワーカーフードとしてのニラ玉。
どんなシチュエーションでも答えてくれる、その懐の深さこそが人々がニラ玉を愛してやまない理由なのかもしれません。
【追 記】
チャッピーがパンチの強いニラ玉を「シブヤ系」って呼ぶんですよ。オザケンやピチカート・ファイブの軽いオシャレなノリと、化調・オイスターソース爆弾のヘビー級グルーブが頭の中でカオスになるんで、その呼び方やめてほしいんですけど…






