意外と知らない?しらすの基礎知識

しらすは何の赤ちゃん?

今回のテーマは「しらす」です。お料理に精通している読者の皆さんは、しらすという名前の魚がいるわけではないことはご存じのはずですが、旬も到来していることなので深堀りしてみましょう。
しらすはイワシやニシン、ウナギ、アユ、イカナゴなどの稚魚の総称で、流通しているほとんどはイワシの赤ちゃんです。これらの稚魚の体が透き通っているのは、色素をもっていないからです。そして、茹でると白くなることから「白子(しらす)」と呼ばれるようになったといわれています。
そしてイワシにも3種類あります。カタクチイワシ、マイワシ、ウルメイワシです。現在、しらすのほとんどはカタクチイワシの稚魚ですが、春先にはマイワシも多く見られます。マイワシの見た目はカタクチイワシより少し黒っぽいのが特徴です。ウルメイワシは全体の数パーセントというレアな存在なので、出会えたらラッキーです。
 
ちなみに軍艦のお寿司で知られる「シラウオ」や、踊り食いで有名な「シロウオ」は、外見はしらすと似ているものの、シラウオはシラウオ科、シロウオはハゼ科の魚で、種類の違う魚です。

しらすの旬は本当に春だけ?

春が近づいてくると、しらすを使った料理を作りたくなる方はいませんか?春キャベツや菜の花など、同じく春が旬の食材と相性のいいレシピはたくさんありますよね。
穫れる地域によって多少ずれるものの、生しらすの旬は春から夏にかけて(3月〜6月ごろ)です。しかしながら、スーパーでは春以外も見かけるような気もしませんか?これには理由があります。

春しらすと秋しらす

意外と知られていないのが、しらすには「春しらす」と「秋しらす」が存在するということ。ふたつの違いは単純に、稚魚が産まれた時期で決まります。春しらすは冬季に産まれた稚魚が成長したもので、秋しらすは春に産まれた稚魚が成長したものです。親であるイワシの種類や生息地によって産卵期も異なるので、しらすの旬は産地により異なるといえます。

しらすはどこで生まれ、どこで穫れるのか

しらすは九州近海で生まれて、黒潮に乗って北上してくるため、兵庫県、愛知県、静岡県が三大産地とされています。兵庫県は淡路島、愛知県は篠島、静岡県は駿河湾が有名な漁場です。
農林水産省によると、令和3年の都道府県別漁獲量では、兵庫県が全体の28.9%、2位の愛知県が14.0%、3位の静岡県は8.5%を占めています。
最近では「湘南しらす」という「かながわブランド」のしらすも有名ですが、実際の漁獲量は全国でみるととても少ないです。

カタクチイワシ太平洋系群の分布・回遊図
(水産研究・教育機構「令和3年度カタクチイワシ太平洋系群の資源評価」より)

しらすに禁漁期があるのはなぜ?

毎春「しらす漁が解禁されました」というニュースを目にしませんか?しらすには禁漁期間が設けられています。これは、漁獲量が年々減少しているしらすを保護するためです。
漁の解禁日は地域によって異なりますが、先の「湘南しらす」でいえば、江の島のしらす漁解禁日は、例年3月11日です。江の島は観光スポットということもあり、「しらすソフト」「しらすコロッケ」など、しらすを使ったSNS映えする名物が次々に生まれているようです。
全国各地のしらす漁解禁日にあわせて、ぜひ新鮮な生しらすを食べに行ってみてはいかがでしょうか。

しらす漁獲量と黒潮の関係

しらすは、前述のとおり、黒潮にのってやってきます。静岡県では2017年以降、しらすの不漁が続いており、2023年は特に顕著でした。原因として考えられているのが「黒潮の大蛇行」です。通常の黒潮の流れは、静岡県沖をまっすぐに流れて北に向かいますが、近年は大きく曲がっています。黒潮大蛇行は、潮の流れだけでなく水温の変化ももたらすため、魚の生息範囲を変えるといわれていて、しらす漁もその影響を受けています。黒潮が離れたり近づきすぎたりすると、しらすが流されて漁場に入ってこないのです。

東海沖における黒潮流路の最南緯度の経年変動(1961年1月~2023年12月):気象庁より

上図は、黒潮の典型的流路を表したものです。1のラインが非大蛇行接岸流路、2のラインが非大蛇行離岸流路、3が大蛇行流路、つまり大蛇行をしているときは3のように大きくうねりながら黒潮が流れているというわけです。1と比較すると、相当違うことが素人目でもわかりますね。
大蛇行のきっかけは、九州南東沖で発生する冷たい海水の渦が、ほかの渦と合流するなどして巨大化することにあるとみられています。気象庁によると、2024年2月の時点でも黒潮は大蛇行していたそうです。2024年のしらす漁獲量も心配になってきますね。
(静岡県のカツオ漁においては、逆にこれがプラスに働いているとのこと…。)

「しらす」と「ちりめんじゃこ」の違い

続いて、しらすとちりめんじゃこの境目はどこなのかという疑問が生じてきます。これは生の状態のしらすに手を加えていくことで変わる「水分含有量」によって定義されています。
生しらすを塩水で煮沸すると「釜揚げしらす」の状態になります。このときの水分率は、生しらすを100%としたときの約90~80%です。これを機械や天日によって乾燥させ、水分率が約70~65%になったものを「しらす干し」といい、さらに水分率を落としたものが「ちりめんじゃこ」になるというわけです。
 
生しらす
 ↓ 塩ゆでする
釜揚げしらす」(水分率約85%)
 ↓ 乾燥させる
「しらす干し」(水分率約70%)
 ↓ 乾燥させる
「ちりめんじゃこ」(水分率約35〜50%)
  
ちなみに「ちりめん」は「縮緬」、「ちりめんじゃこ」は「縮緬雑魚」と表記できます。「縮緬」は表面に細かなしわが入った絹織物のことで、生しらすのときよりも縮んだ見た目から納得できますね。
「雑魚」は今となっては通常あまりいい意味で使われない単語ですが、もともとは「小さくて価値が薄い魚」を総称したもので、漁師や鮮魚を扱う商人のあいだで使われていました。
また、「雑魚」のなかには、オイカワやウグイなど、きれいで美味しい魚も含まれています。

おいしいしらすを選ぶコツ

釜揚げしらす・しらす干しは形が揃っていて色が白く、表面に光沢のあるものを選ぶとよいでしょう。ちりめんじゃこの場合は、均一に乾燥されていて光沢・透明感があるものを選びましょう。

しらすに含まれる栄養素

しらすは、小魚をまるごと食べられるので、豊富な栄養を摂取することができます。

生しらす釜揚げしらす
エネルギー67kcal84kcal
水分81.8g77.4g
たんぱく質15.0g17.6g
コレステロール140mg170mg
脂質1.3g1.7g
差引き法による利用可能炭水化物 3.3g5.1g
灰分(カルシウム・マグネシウム・鉄などミネラルの総量)2.4g2.9g
ナトリウム380mg840mg
カリウム340mg120mg
カルシウム210mg190mg
マグネシウム67mg48mg
リン340mg320mg
0.4mg0.3mg
亜鉛1.1mg1.1mg
0.02mg0.03mg
マンガン0.07mg0.09mg
ヨウ素13μg
セレン39μg
レチノール110μg140μg
ビタミンD6.7μg4.2μg
ビタミンE0.9mg0.8mg
ビタミンB10.02mg0.07mg
ビタミンB20.07mg0.04mg
ナイアシン3.7mg2.1mg
ビタミンB60.17mg0.05mg
ビタミンB124.2μg1.5μg
葉酸56μg26μg
パントテン酸0.51mg0.30mg
ビオチン9.9μg
ビタミンC5mgTr mg
食塩相当量1.0g2.1g
可食部100gあたり/日本食品標準成分表(八訂)増補2023年版 より抜粋

この表をみてみると、しらすの代表的な栄養素は、カルシウムとビタミンDであるといえます。カルシウムは骨や歯を形成するほか、筋肉の収縮や神経伝達にも関与しています。ビタミンDは、カルシウムの吸収や骨への沈着を促進するため、この2つはとても相性の良い栄養素といえます。
 
しらすは栄養価の高い食材である反面、コレステロールやプリン体も多く摂取してしまいがちなので、食べ過ぎに気をつけなければいけない体質の方もいるでしょう。
また、食塩相当量に注目してみると、釜揚げしらす100gあたりの塩分は2.1gもあります。塩分摂取量を制限されている方や赤ちゃんにとってはふさわしくないため(離乳食)、その場合は熱湯を回しかけて塩抜きをしましょう。最近では塩分を抑えた釜揚げしらすも販売されています。

キッチンスタッフおすすめの食べ方

現在Reproのレシピに公開されている「瓢亭の朝がゆ Repro再現版」のお供に、ちりめんじゃこを少しだけ。お上品な朝食を楽しめますよ。
レシピはこちらをクリック↓

瓢亭の朝がゆ【Repro再現版】