その香り高い特性で知られる「ゆず」。柑橘類の中でも日本の文化に根ざしているこの果実は、奈良時代から日本の各地で愛され続けています。本記事では、ゆずの「旬」の時期を中心に、ゆずの魅力を徹底解剖します。夏と冬、年に2回訪れるその旬の時期には、どのような変化が見られるのか? そして、最高の状態でゆずを楽しむためのポイントは何なのか? これらの疑問に答えるために、ゆずの選び方から保存方法、栄養価、さらにはゆずを使った伝統的な郷土料理に至るまで、多角的に掘り下げていきます。
目次
ゆずはどんな柑橘類?
まずは、ゆずの基本的な特徴、栽培の歴史、そして人気のある品種について詳しく解説していきます。
奈良時代から栽培されている香り高い柑橘類
ゆずは中国・長江上流域が原産で、奈良時代に朝鮮半島を経由して日本に伝わったとされています。現在では、中国や韓国をはじめ、オーストラリア、スペイン、イタリア、フランスでも栽培されていますが、日本のゆずは昼夜の寒暖差が大きい内陸の山間部で栽培されることが多く、そのため香りが特に高いとされています。
ゆずの木は成長が遅く、種から育てる実生栽培では実をつけるまでに15~20年かかります。この栽培方法では手間がかかるぶん生産地域も少ないものの、香りが強く、味わい深いゆずを生産することができます。
多くの地域では、カラタチなど他の柑橘類にゆずを接ぎ木して育てており、これにより数年で実をつけることが可能です。
ゆずは漢字で「柚子」と書きますが、名前の由来は中国名の「柚(ゆう)」と、お酢として使われることが多かったことから合わせて「ゆず」と呼ばれるようになったと言われています(諸説あり)。
食の話でありませんが、日本人になじみ深いのは冬至の風物詩である「ゆず湯」です。ゆず湯は江戸時代から始まり、血行を促進し、保湿効果もあるとされています。
日本国内では高知県が最大の産地です。農林水産省の2020年特産果樹生産動態等調査によれば、高知県での収穫量は12,958tと、2位の徳島県(2,951t)に圧倒的な差をつけています。
ゆずは一年を通して流通しており、出荷量は11月から1月にかけて集中します。夏から秋にかけて出回る青ゆずと、秋から出回る黄ゆずがあり、果汁は黄ゆずの方が豊富です。
人気の品種と特徴
ゆずの代表的な品種には「木頭(きとう系)」、「海野(かいの)系」、「山根系」、「多田錦(ただにしき)」などがあります。
木頭系
木頭系のゆずは、徳島県の木頭村が発祥の地とされています。香りが強く、皮の色が濃いのが特徴です。果実は比較的大きく、果汁も豊富で、料理や飲料の香り付けに適しています。
海野系
海野系のゆずは、高知県の海野村が発祥地です。皮が薄く、果汁が多いことが特徴です。酸味が強いので、ポン酢やゆず茶などの加工品に多く使われます。
山根系
山根系のゆずは早生種で、他の品種よりも早く収穫できることが特徴です。果実は中くらいの大きさで、果汁の量は多めです。ゆず酢やゆずドリンクなどに利用されます。
多田錦
多田錦は種がなく、枝のトゲも少ないため扱いやすい品種です。果実のサイズはやや小さめですが、香りが強く、料理用として人気があります。
ゆずの旬の時期はいつ?
ゆずは夏と冬の2回、旬を迎えます。夏に収穫される「青ゆず」と呼ばれるゆずは、鮮やかな緑色と爽やかな香りが特徴です。
一方、冬に黄色く熟した「黄ゆず」はさわやかな甘さとフレッシュな香りを持ち、ジュースや柚子茶として楽しめます。
ここでは、ゆずの旬の時期とその特徴について詳しく探ります。
夏と冬、2回の旬と特徴
夏の旬である7月から8月に収穫されるゆずは「青ゆず」と呼ばれ、その名のとおりまだ青い実の状態です。青ゆずは、鮮やかな緑色と爽やかな香りが特徴で、薬味や香り付けに最適です。
特に高知県では、青ゆずの皮をすりおろして刺身の香り付けに使われることが多く、ゆず胡椒の原料としても重宝されます。また、青ゆずの果汁を絞って炭酸で割ると、夏の暑さを吹き飛ばす爽やかなゆずスカッシュが楽しめます。
冬の旬である10月から12月にかけて収穫されるゆずは黄色く熟しており、一般的にイメージされる色鮮やかな「黄ゆず」です。この時期は、さわやかな甘さとフレッシュな香りが特徴で、ジュースや柚子茶として飲まれます。また、11月から2月にかけてスーパーに出回るゆずは寒冷地で作られるため、酸味や甘さが強く、この時期が一番おいしいゆずを楽しめる時期とされています。
また、ハウス栽培のゆずは、季節や気温に左右されずに栽培・収穫されるため、年間を通して出荷されています。
旬のゆずを最大限に楽しむ方法
ゆずの魅力を最大限に引き出すためには、選び方と保存方法が重要です。ここでは、新鮮で良質なゆずを見極めるポイントと、家庭での最適な保存方法を詳しく解説します。旬の時期にふさわしいゆずを選び、長くその鮮度を保つためのコツを学びましょう。
新鮮なゆずを選ぶポイント
ゆずを選ぶ際には見た目、触感など、いくつかのポイントを押さえることが重要です。
まず、ゆずの皮の状態を確認しましょう。新鮮なゆずは皮が固く、ハリがあります。皮がブヨブヨしていたり、乾燥してシワがあるものは避けるべきです。もしこのような状態だったなら、ゆずが古くなってしまっている可能性があります。
次に、ゆずの重さを手にとって感じてみましょう。重みを感じるものは、果汁が豊富でジューシーな証拠です。逆に、軽いものは中身が乾燥している可能性があります。
また、ゆずの香りも重要な判断基準です。新鮮で良質なゆずは、強くて爽やかな香りを放っています。香りが弱い、または全くないものは、熟していないか、品質が劣っている可能性があります。
ゆずの枝には多くの鋭いトゲがあり、それが実を傷つけることがあるため、傷が全くないものを見つけるのは難しいかもしれません。しかし、少しの傷であれば、香りや味に大きな影響はありません。重要なのは、傷が深くなく、腐敗やカビの兆候がないことです。
ゆずのおすすめの保存方法
常温保存(保存期間:約1週間)
ゆずは寒い時期であれば常温保存が可能です。キッチンペーパーや新聞紙で包み、冷暗所に置きます。乾燥しやすく香りがすぐに飛ぶので、1週間以内に使い切りましょう。
冷蔵保存
ゆず丸ごと一つ(保存期間:10日程度)
ひとつずつキッチンペーパーで包んでからポリ袋に入れ、冷蔵庫の野菜室で保存します。
カットしたゆず(保存期間:約3〜4日)
使いかけのゆずは切り口にぴったりラップをして全体を包み、冷蔵庫の野菜室に入れます。
冷凍保存(保存期間:約1カ月)
乾燥しないようにラップでぴったり包み、フリーザーバッグに入れます。使うときは、解凍せずに凍ったまま皮をすりおろしたり、10分ほど常温に置いて皮をむいたりします。完全解凍すると柔らかくなるので注意が必要です。
香り付けで少量の皮だけ削ったなど、使いかけのゆずを冷凍保存する場合は、皮だけで冷凍しましょう。大きめに切ったら、ラップしてフリーザーバッグに入れればOKです。
実の部分をすぐ使わない場合は果汁として冷凍保存するのが望ましいです。冷蔵保存だとすぐに風味が飛んでしまいます。冷凍用の保存容器やフリーザーバッグに入れて保存しましょう。
ゆずの栄養と健康への効能
ここでは、ゆずが持つ豊富な栄養価と、それらにどのような健康効果があるかをまとめています。
ゆずに含まれる栄養素と効果
ゆずの果汁100gあたり約40mgのビタミンCが含まれています。ただし、皮の部分には160mgと果汁以上に含まれています。
ビタミンCには免疫機能の強化や肌の健康維持、抗酸化作用などの効果があり、風邪の予防や肌の健康維持に役立つとされています。
他にも、カリウムが210mg含まれています。カリウムは体内の電解質バランスを維持し、血圧の調整に役立ちます。さらに、20mgのカルシウムが含まれており、骨の健康維持に寄与します。11mgのマグネシウムも含まれており、神経機能や筋肉の動きをサポートします。
ゆずはクエン酸も豊富で、その含有量はレモン以上ともされています。クエン酸は体内のエネルギー生成過程に関与しており、エネルギーの生産を助けるはたらきがあります。そのため、運動や日常活動に必要なエネルギーが効率的に供給され、疲労感が軽減される可能性があります。
また、乳酸の蓄積を減らす効果があるとされています。乳酸は筋肉疲労の主要な原因の一つであり、特に運動時に筋肉内で生成されます。クエン酸が乳酸の代謝を促進することで、筋肉疲労の軽減に寄与すると考えられています。
ゆずを使った郷土料理
古くから栽培されているぶん、ゆずを使った郷土料理もいくつか存在しています。ここでは、例として大分県の「ゆずの皮煮」、徳島県の「ゆずかん」と「ゆべし」について紹介します。
ゆずの皮煮
「ゆずの皮煮」は、大分県の伝統的な郷土料理で、特に日田市、玖珠町、竹田市などの地域で親しまれています。大分県はゆずの生産量が国内上位で、なじみ深い果実です。
「ゆずの皮煮」は、皮を細かく刻んで甘く煮た料理で、お茶請けやお節料理に使われます。また、お湯を注げば「ゆず茶」にもなります。
作り方は、厚めに剥いた皮を大きめに切り、たっぷりの水で2回ゆでこぼしして苦味やえぐみを取り除きます。その後、水気を切り、砂糖をまぶしてしんなりさせ、適量の水を加えて鍋で煮込みます。照りが出てきたら保存容器に入れて保存します。
皮煮は、薄切りにして他の料理に使ったり、甘酒に浮かべたりしても美味とされています。
ゆずかん
「ゆずかん」は徳島県の那賀郡那賀町で特に人気のある郷土料理です。この地域では「木頭ゆず」が盛んに生産されており、ゆずを使用したさまざまな料理や商品が開発されています。
ゆずかんは、ゆずゼリーとも呼ばれ、ゆずの風味が感じられるさっぱりとしたデザートです。日常的に家庭でおやつやデザートとして作られ、食べられています。この料理では、ゆずをスライスして使用するほか、果汁を搾ってゼリーの部分にも使用します。また、ゆずを半分に切って中身をくり抜いてカップ代わりにすることで、より華やかな見た目に仕上がっています。
ゆべし
「ゆべし」は徳島県の郷土料理で、特に那賀町での生産が盛んです。この地域は降水量が多く、日中と夜の寒暖差が激しいため、ゆずの栽培に適しています。
ゆずを使った料理は多岐にわたりますが、「ゆべし」はゆずの皮を砂糖としょうゆで煮詰めて作る保存食で、県内で広く親しまれています。
ゆずが完熟する11月頃に作られるゆべしは、時間をかけてじっくり煮詰められます。収穫して果汁を搾った後に作られることが一般的で、秋から春にかけて副菜として利用されていました。